連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第4回

奇跡の救命劇! 歩いて「ER」に来た患者が突如「心筋梗塞」を発症!命を救った最大の功労者は?

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一番の功労者は、患者のもとに走って行ったERナース

 救急車での来院は、ホットライン(救急室との直通電話)で連絡が入ってから5〜10分以上の余裕がある。そのため、人や物だけでなく心の準備もできる。しかし、ウォークインでの来院は、ほとんどが軽症の患者のため、その中に紛れた重症患者は奇襲に似たものがある。

 今回、奥さんがナースステーションのERナースに声をかけなかったら、またはそれを聞いたERナースが迅速な対応をしなかったら、どうなっていただろうか。患者は通常の流れに沿って受診手続きが完了するまで診察を待つことになった。時間経過からして診察を待っている最中に心室細動(心肺停止)に陥っていたであろう。

 そこで異常事態に気づき、診察室に運ばれ、医師を呼んで治療が始まる。心室細動は、発症後、除細動(電気ショック)をかけるまでの時間が1分遅れるごとに、救命率が7~10%ずつ下がっていく。10分以上放置されれば、ほとんど救命されない。しかし、除細動までの間に質の高いCPRが行われていると救命率の低下は除細動が1分遅れるごとに3~4%の低下にとどまり、何もしないときに比べて救命率は2~3倍高くなる。

 もし今回の患者が、待合室で心室細動を起こしていたら、救命率は半分以下になっていたであろう。今回の一番の功労者は、患者のもとに走って行ったERナースである。彼女の貢献なくして患者の命は救われなかったであろう。

心筋梗塞の死因の大部分は発症後間もない時間に起こる合併症

 患者は締め付けられるような胸の痛みを訴え、冷や汗をかいていた。このような症状を見たら、一番に心筋梗塞を疑い、絶対に救急車を呼び、自家用車で病院に連れて行ってはならない。急変の危険があるからだ。

 心筋梗塞による死亡率が高い理由は、発症後すぐに起こる合併症のためである。合併症は心肺停止(心室細動、心室頻拍、無脈性電気活動、心静止)と重症不整脈(症候性徐脈、不安定な頻拍)である。これらの合併症は、いつ起こるかわからない。起こらないかもしれない。起こった場合は、死亡する可能性が非常に高くなる。米国では心筋梗塞で死亡した人の半分が、病院に到着する前に心肺停止で事切れているという。

 心筋梗塞を疑った、または診断した場合は、いつ起こるかもわからない致死的合併症を常に念頭に置いて行動をとらなければならない。現在、意識が清明だからとかバイタルサインが安定しているからと言っても、次の瞬間は急変しているかもしれない。今回の話は、このことを如実に物語った典型的な症例である。


連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!バックナンバー

河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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