連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第4回

奇跡の救命劇! 歩いて「ER」に来た患者が突如「心筋梗塞」を発症!命を救った最大の功労者は?

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電気ショックまでの時間が1分遅れるごとに救命率が7~10%ずつ下がっていく(shutterstock.com)

 救急医療は、患者と救急医との関係だけで成立するものではない。患者が病院に着くまでに、あるいは救急医の診察を受ける前で、決定的な瞬間がある――。

 夜10時頃、66歳の男性が胸の痛みを訴え、奥さんに付き添われて歩いてER(救急室)にやって来た。ウォークインでの来院である。男性は受付の前にある椅子に横になり、奥さんはERのナースステーションでERナース(看護師)に話しかけた。

「主人が胸が痛いと言っているのですが、どうしたらいいですか?」

 奥さんの様子から緊迫感はない。しかし「胸痛」という言葉を聞いたERナースは、奥さんに受診手続きを行うように言い、自分はその男性のところへ走って行った。椅子に横たわっていた男性は胸を押さえ、血の気が引いた真っ青な顔をして冷や汗をかいていた。

 ERナースが「どうしましたか?」と聞いても、その男性は辛そうに「胸が痛い」としか言わない。脈を取ると徐脈になっている。「動けますか?」と質問しても、首を横に振るだけである。自分で動こうという気力もなくなっているようだ。

 これを見たERナースは、ただごとではないと判断し、近くに置いてあった車椅子にその男性を乗せてER(救急室)に運び込んだ。

心電図で心筋梗塞と判明

「先生、胸痛です!」

 ERナースが大声で呼ぶと、何人かのERドクター(医師)がすぐに集まってきた。すでに患者の心電図は、ERナースによって取られていた。

「AMI(心筋梗塞)だ、循環器(循環器医師)を呼んでくれ!」

 心電図を見たリーダー医師の声が飛んだ。心筋梗塞の患者は大部分が救急車で搬入されるが、時としてウォークインでの来院もある。歩いてきた心筋梗塞患者に対する対応は、救急車でのそれよりも緊張感がある。

 この患者は、意識は清明で血圧・呼吸状態も問題はない。緊急の心臓カテーテル検査になる予定だ。点滴ラインの確保、入院時の血液検査、カテーテル検査に向けての準備があわただしく行われた。

 その時である。患者が急にうなり声をあげて痙攣を起こした。ERに搬入されてから約10分が経過していた。意識(反応)もない、呼吸もない、脈も触れない。心電図モニターの波形も変った。心室細動(心肺停止)である。

「VF(心室細動)だ、除細動器(電気ショック)を持ってきて!」

 リーダー医師の声が飛ぶ。すぐにCPR(心肺蘇生)が始まり、除細動(電気ショック)が行われ、再度、CPRが続けられる。

 その後、患者に体動がみられ、目を開けて話し始めた。モニター波形も洞調律に戻った。すばやい対応が幸し、患者はその後、心臓カテーテル室に運ばれた。患者がERに来院後、わずか30分間の出来事である。

河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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