病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」第12回

タチのいいがん、タチの悪いがん~海老蔵さんの妻・麻央さんの乳がんに学ぶ

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なぜ、そんなに早く乳がんが進行してしまったのか……(shutterstock.com)

 なぜ、そんなに早くがんが進行してしまったのか――。市川海老蔵さんが行った衝撃的な報告会見に、多くの人がそう思ったのではないだろうか。

 先日、妻でフリーアナウンサーの小林麻央さん(33)の病状について、「深刻な乳がん」と発表した海老蔵さん。

 会見で述べられたことを整理すると、「30代前半の女性が、1年8カ月前に乳がんが判明したにもかかわらず、手術を受けていない」ということになる。

 メディアが報じた麻央さんの近影は、昨年11月(発症1年目)。長男の勧玄君の「初お目見え」のときのことだ。体型は特に変わらず、頭髪はカツラでもなさそうで、眉毛も睫毛もしっかり生えていた――。

 となると、抗がん剤による化学療法ではなく、約1年間の全身療法はホルモン治療だけだったのかもしれない。

 現在、乳がんに用いられる有効な治療法のひとつに分子標的治療がある。分子標的治療薬が、がん細胞に特有の分子をねらい撃ちすることで、副作用がほとんどなくがんを抑える効果が期待されるものというものだ。

 乳がんの分子標的治療薬は抗HER2薬(ハーセプチン)である。がん細胞がHER2陽性ならこの注射薬を使っていた可能性もあるが、この薬は抗がん剤との併用が原則であり、ホルモン療法とハーセプチンの併用はあまり効かないとされる。

 手術前の化学療法(ネオアジュバント治療)は、がんを小さくして、手術できるようにすることが前提だ。通常、半年ほどで終えるため、手術を前提に2年近く化学療法を続けることはない。つまり、当初から、手術、すなわち根治を前提としない治療計画だったのだろう。

 あるいは、ご本人や家族が化学療法や手術に対して難色を示したことがきっかけだったかもしれない。一般的にいわれているように、若い人のがん細胞は活発で増殖が早い場合が多い。治療効果があらわれる前に全身に進行してしまった可能性もある。

 病理医として客観的に推測すると、わきの下のリンパ節以外に、すでに全身(骨や肺や肝臓)に転移したステージ4で、はじめから手術適応外だったのかもしれない可能性がある。

 あらゆる治療を試みたがうまくいかなかったため、麻央さんは、標準治療ではない医療を求めて、東京を離れて入院していた可能性もある。たとえば、女優の樹木希林さんのように、鹿児島のUMSオンコロジークリニックでの放射線治療など、その施設でしか受けられない治療法もあるからだ。

 いずれにしても、いまは療養に専念されて、ご家族との大切な時間を過ごされていただきたい。海老蔵さんが会見の最後に「追いかけないで……」と求めたように、無骨な取材は慎むべきだ。

あらためて学ぶべきは「がんはすべて同じではない」

 今回の報道は、やはり「がんは恐ろしい」との印象を強くさせたに違いない。だが、私たちがあらためて学ぶべきは、がんはすべて同じではないということだ。

 ステージの進行だけでなく、がんには「タチのいいがん」と「タチのわるいがん」があることを知っていただきたい。

 がんの治りやすさや悪性度は、がんの進行度やがん細胞の種類のほか、生じる臓器によっても異なる。

 最新のデータをみると、日本のがん患者の5年生存率は60.7%である(大阪府がん登録資料2007年版)。5年生存率はがんの「治癒率」とみなされている。がんと診断された人で命を落とすのは4割だけである。

 一方、厚生労働省が毎年発表する死因統計(平成26年度人口動態統計)では、がん死が29.8%でトップである。

 ちょっと簡単な計算をしてみよう。29.8%を、1-0.607=0.393で割ると75.3%になる。数字を単純に解釈すると、日本人の75%ががんにかかることになる。

 もっとも、一度がんにかかった人は2つ目、3つ目のがんにかかりやすいので、その分を差し引いても、3人中2人程度はがんにかかるのが現状である。そう、がんはよくある病気、コモンディジーズなのだ。

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