5月31日を「世界禁煙デー」(shutterstock.com)
世界保健機関(WHO)は毎年5月31日を「世界禁煙デー」と定めて、タバコの害に関する健康教育、非喫煙者の保護に関する啓発活動を進めています。
日本では厚生労働省が「2020年、受動喫煙のない社会を目指して~たばこの煙から子ども達をまもろう~」をテーマに掲げ、5月31日~6月6日を禁煙週間としています。
喫煙の害は健康面にばかり目がいきがちですが、依然として、タバコの火の不始末による火災や路上喫煙が原因のケガは少なくありません。
平成23年の『消防白書』によると、1年間の総出火件数5万1139件のうち、出火原因で最も多いのが「放火及び放火の疑い」で1万1205件、次いで「コンロ」が5139件、「タバコ」が4997 件と続きます。
タバコによる出火は、総出火件数の9.7%、損害場所は「建物」が2970件と圧倒的です。また、火災に至った原因を見ると、「不適当な場所への放置」が2853件、「消したはずが再燃した」が287件です。
よくあるのが、寝床の近くに灰皿を置いて、火が完全に消える前に就寝してしまい、寝ている聞に火災となるケース。タバコの火が多くの生命や財産を奪っているのです。
また、街中でタバコを吸いながら歩行している人がいます。タバコの火の先端は800℃以上。子どもの身長と大人が手を降ろした時の高さは同じくらいなので、タバコを持つ手と接触する可能性が高く、非常に危険です。
そのことから平成14年10月、東京都千代田区は日本で初めて、主要な道路での歩行喫煙禁止条例を施行しました。その後、ほかの都市でも同様の条例が制定されました。タバコの火は、吸う人が思っているよりもずっと危険なものなのです。
タバコ依存性の原因
タバコが手放せなくなり、執着するのはなぜでしょうか。愛煙家に話を聞くと、タバコを吸うと目が覚める、頭が働くようになる、気分が落ち着く、などの効果があるようです。タバコには何百種類もの化学物質が含まれていますから、これらの一部が上記のような作用をもたらすようです。
代表的な物質のニコチンを例に挙げて科学的に検証してみます。ニコチンには、脳内の神経と神経の間を結び付ける働きがあります。すなわち、脳の中で快楽などが得られる神経の物質として働くので、ニコチンが体内に入ると少々の快楽や覚醒感が得られるのです。
そして、一度ニコチンを得たことで、再び同じ感覚を得たいがために、またニコチンを欲するという依存性が出るのです。
もっとも指摘されている健康に対する害では、私も研究の中で、喫煙によって脳の血流が低下する現象や、動物がタバコの煙に曝露されると血流が悪くなる現象を目にしました。
国内外の研究では、喫煙は肺がんを始めとする各種のがん、心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患、肺気腫や慢性気管支炎などの閉塞性肺疾患、胃・十二指腸潰傷などの消化器疾患の危険性の増大が指摘されています。
諸外国やWHOでは、タバコが健康に悪影響を及ぼすという教育を充実させています。わが国でも教育・啓蒙活動が行われた結果、喫煙習慣者の割合が徐々に低下してきました。
日本たばこ産業の調査によると、喫煙習慣者の割合は、平成2年に男性が60.5%、女性が14.3%でしたが、平成12年には男性が53.5%、女性が13.7%、平成22年には男性が36.6%、女性が12.1%と減少しています。