シリーズ「これが病気の“正体”!」第1回

【閲覧注意】これがO157(腸管出血性大腸菌)にかかった大腸! 罹患の19年後にも犠牲者が……

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鮮血から下血をきたす大腸病変



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大腸全体に著しい出血性病変(Colon ascendensは上行結腸、Ileocecalは回盲部=小腸の終わりの部分)。小腸病変は軽微。

 とりわけ右半結腸の病変が目立ち、小腸病変は軽微だとわかる。所見は高度の「出血性大腸炎」であり、肉眼的に「赤痢」と区別できない。鮮血から下血をきたす大腸病変として、非常に印象的な肉眼所見といえる。顕微鏡所見では、高度の出血を伴う壊死した粘膜にグラム陰性桿菌が多数感染している。

 死因は、大腸菌のつくるベロ毒素が血管内皮細胞と腎臓の近位尿細管を傷つける「溶血性尿毒症症候群」と、ここに紹介した7歳女児の症例のような「脳症」が重要だ。ともに、ベロ毒素が原因である。

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写真の模式図(簡単な解説つき)

 19年後に死亡した患者さんでは、ベロ毒素による血管内皮障害でできた血栓が原因で細い血管があちこちで狭くなって、持続性の高血圧をきたしていたようだ。

 先述したように、大腸菌と赤痢菌は親戚関係にある「グラム陰性桿菌」で、腸管出血性大腸菌O157と赤痢菌はベロ毒素をつくることで共通だ。菌の名前が違うだけで、O157感染症は赤痢の一種と言っても過言でない。

 ちなみに、腸管症状に加えて、溶血性尿毒症症候群や脳症などの全身症状をきたす死亡率の高い病態は、以前、「疫痢」とよばれた。わが国独特の疾患概念で、英語でも「Ekiri」と表現された。

 赤痢と疫痢が「法定伝染病」だったことを覚えている人生のベテランは少なくないだろう。赤痢は国民の栄養状態の悪かった終戦の年に全国各地で多発し、多くの方が亡くなった。赤痢菌は学名をシゲラ(Shigella)というが、言うまでもなく、発見者、志賀潔の名が冠されている。

現代の赤痢菌はO157より軟弱に

 “シゲラ菌”感染症は、今でも、発展途上国ではとても恐ろしい伝染病だ。体力や抵抗力が弱いと、簡単に感染する。このような状態だと、菌の病原性は高く、死亡率も高い。

 下水や水洗トイレが普及し、食品の安全性が高まり、さらに消毒グッズが広く出回っている現代、赤痢菌にとって受難の時代が続いている。たまたま感染した患者さんが、昔のようにコロっと死んでもらっては、自分の子孫を残すチャンスがなくなる。

 そこで、現代の赤痢菌は弱毒化している。軽症なら患者は歩き回り、ほかの人にうつしてくれるのだ! 命に関わることはなくなった現代の赤痢菌はO157より軟弱な菌といえよう。


シリーズ「これが病気の“正体”!」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

つつみ病理相談所http://pathos223.com/所長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。2017年4月~18年3月、はるひ呼吸器病院・病理診断科病理部長。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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堤寛
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