連載第3回 これから起きる“内部被ばく”の真実を覆う、放射能の「安心神話」

放射線は低線量でも白血病や発がんに影響! 数多くの論文にICRPは無視

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いまだ争われている原爆症認定訴訟 ぎんの ぶどう/PIXTA(ピクスタ)

 原爆症認定を巡る集団訴訟で国は11月、認定申請を却下した原告らを原爆症と認めた東京地裁判決(10月29日)を不服として、原告17人のうち6人を東京高裁に控訴しました。しかし、残り11人は控訴せずに、原爆症と認定するようです。

 このように、原爆による被爆者認定訴訟で国は連敗を重ねています。そのため国は認定基準を緩和せざるをえなくなり、爆心地から3.5キロメートル内にいた人までは、ある条件を満たせば認定するようになりましたが、3.5キロメートル内にいた人の推定被ばく線量は約1ミリシーベルト(原爆投下時の被ばく線量)です。

 ところが、この認定審査の基準の改定においては、がん以外の「非がん性疾患」に関しては放射線起因性としないこととなり、将来生ずる可能性のある福島原発事故による被ばく者の非がん性疾患は放射線由来としない姿勢を作り出しています。

 この基準からすると、現在、福島県内に住んでいる人が将来がんになったら、政府は認めないでしょうが、みんな被爆者認定を受けられる権利をもつことになるのです。さらに、原発労働者で白血病になって訴えた人は5ミリシーベルトで労災認定されています。いま福島の住民に強要しているのは、それほど高い線量なのです。

 ちなみに以前、郡山駅前で行われたモニタリングポストの線量は、「0.17~0.18マイクロシーベルト/時」と表示されていましたが、実際には約40%前後低く表示されます。私が持参した、病院で使用している線量計では「0.3マイクロシーベルト/時」前後の値を示していたからです。

 日本では一般公衆の被ばく線量に関する個別の法律はありませんが、唯一「原子炉等規制法」において原発敷地外は年間1マイクロシーベルトを超えてはならないとされ、個人の被ばく線量は空間線量で評価すると示しています。「0.114マイクロシーベルト/時」で年間1ミリシーベルトとなりですから、住民は年間ミリシーベルト以上の被曝となるのです。

低線量でも白血病や発がんに影響する論文多数

 健康に影響が出る被ばく線量について「しきい値なしの直線仮説」を認めているICRP(国際放射線防護委員会)との基本的な姿勢をも軽視して、日本政府は「100ミリシーベルト以下では他の要因も絡むので、放射線による過剰発がんはわからない」とする立場をとっています。しかし、被ばく線量が少なくても、確率は低くなりますが、発症するかどうかは別にして影響は必ずあります。

 マスコミもなぜか報道しませんが、国際的には20~100ミリシーベルト以下の被ばくでも発がんするという報告はたくさんあります。代表的なものを紹介します。

 ①1955年、イギリスのアリス・M・スチュアート女医は、幼児の白血病の多発は妊婦の骨盤のエックス線撮影が関与していることを報告し、低線量でも影響が出ることがわかりました。彼女のアメリカ議会での証言は、大気中の核実験中止のきっかけとなっています。

 ②医療被ばくで発がんが増加することを明らかにした代表的な論文は、放射線診断による被ばくでがん発症が日本は世界一であることを明らかにしたオックスフォード大学(イギリス)からの報告(Lancet363:345-351.2004)です。

 この論文は、エックス線診断の頻度と線量から集団実効線量を推定し、「しきい値なしの直線仮説」に基づいて15カ国の75歳までの発がんを推計したものです。その結果、日本の年間エックス線検査数は1000人当たり1477回で15カ国平均の1.8倍となり、がんになった例は年間7587例と推定され放射線診断の被ばくによる発がんは年間の全がん発症者の3.2パーセントにあたるとしています。

 つまり日本のがんの3.2パーセントが放射線診断によるものとされたわけで、学会でも議論となりました。しかし、結局は医療被ばくには制限がなく、また必要な検査として行われているので仕方がないというのが大勢だったため、議論は断ち切れてしまいました。

ICRPは科学的な根拠をもたず反論できなくて無視の姿勢

西尾正道(にしお・まさみち)

北海道がんセンター名誉院長、北海道医薬専門学校学校長,北海道厚生局臨床研修審査専門員。函館市生まれ。1974年、札幌医科大学卒後、独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター(旧国立札幌病院)で39年間がんの放射線治療に従事。2013年4月より現職。著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、『がんの放射線治療』(日本評論社)、『放射線治療医の本音‐がん患者2 万人と向き合って-』(NHK 出版)、『今、本当に受けたいがん治療』(エムイー振興協会)、『放射線健康障害の真実』(旬報社)、『正直ながんのはなし』(旬報社)、『被ばく列島』(小出裕章との共著、角川学芸出版)、『がんは放射線でここまで治る』(市民のためのがん治療の会)、その他、医学領域の専門学術著書・論文多数。

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