多くの人が放射線管理区域に住むことに?
2014年12月28日、政府は福島県南相馬市に指定した「特定避難勧奨地点」142地点(152世帯)を解除した。特定避難勧奨地点とは、警戒区域や計画的避難区域のような広がりはなくても、放射線量が局所的に高い「ホットスポット」をいう。
基準は、福島第一原発事故発生後1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される地点だ。特定勧奨地点に指定されると、避難者は行政から支援を受けることができる。
避難勧奨地点は2011年6月以降、福島県の伊達市や川内村、南相馬市に指定された。伊達市と川内村は翌年解除されており、今回の解除で避難勧奨地点は全てなくなる。
同月21日に行われた政府の現地対策本部による住民説明会では、高木陽介経産副大臣が「28日に解除する」と一方的に発表。住民から「なぜ指定を解除したのか」と追及されると、政府側は「20mSv/年以下であれば健康被害はない」と答えたという。
現地対策本部によると、対象地点の住宅周辺では2014年3月までに除染が終了。7~8月に空間の放射線量を測定した結果、最大値は毎時約1mSvで、指定基準の毎時3.8mSv(年間20mSv)を下回ったなどとして解除を決定した。
政府は10月中の解除を目指していたが、住民説明会で住民の賛同を得られずに延期。12月21日の説明会では、「基準値自体が高く、特に影響の大きい子どもたちは帰れない」と、対象住民の多くが解除に反対。住民の理解が得られないまま解除は強行された。
放射線管理区域に住む人々
そもそも政府が設定した20mSv/年という基準は、本当に健康被害がない数値なのだろうか。
日本はこれまで、ICRP(国際放射線防護委員会)の年間実効放射線量1mSvという基準を実施してきた。また、日本の国内法(産業安全基準など)は、年間実効放射線量5mSvを超える地域への一般公衆の立ち入りを禁止。妊娠期間中に妊産婦が年間実効放射線量 2mSv以上の被ばくを受けることを禁止している。現在の政策は、これまで適用されてきた国際基準と国内基準を無視することになる。
一方、チェルノブイリの場合、原発事故周辺地域の政府は、年間5mSvを超える地域に住む住民に対して、移住に際して完全な補償を認めた。1mSv を超える地域の住民には、希望する場合、避難の権利を認め完全な補償を行い、被災者に対して包括的な支援も提供している。
放射線科医である北海道がんセンターの西尾正道名誉院長は、「放射線管理の法律には、3カ月で1.3mSv(年間5.2mSv)以上の放射線を管理区域外に出してはいけない規定がある。20mSv/年は、放射線管理区域の約4倍の線量。政府の帰還基準は法律違反なのです」と訴える。
さらに「チェルノブイリの5mSv/年は、内部被ばくと外部被ばくを合計した数値。日本政府は外部被ばくだけ。この帰還基準は健康被害の人体実験だ。せめて放射線管理区域外に出すぐらいの基準を設定すべき」と主張している。
政策の決定過程に住民参加の保証を
被ばくの影響を受けやすい子どもや妊産婦はもちろん、多くの住民が放射線による健康被害のリスクを防ぐ方法もなく、汚染された地域で生活を続けることになる。
2012年11月、国連人権理事会特別報告者のアナンド・グローバー氏は政府の招待で日本を訪問し、福島第一原発事故における健康に対する権利の実施状況を調査した。同氏は、関係省庁委員会の高官、幹部と会談、専門家、学者、市民団体および地域代表者さらに福島県および宮城県の幹部職員にも会った。
そして、2013年5月の国連人権理事会で出された日本政府への報告書で、次のよう勧告している。
「日本政府が、住民の声を聞かずに、「経済と健康のバランス」をとって避難線量の基準を決めるべきであるというICRPの考えに沿って対策を進めていることは、一人ひとりの市民の健康権を侵す不当な行為である」
「被ばく線量限度を決定する場合、住民、とりわけ放射線に弱い妊娠女性と子どもたちの健康権をくれぐれも侵害する事のないようにしなければならない。汚染されていた地域への帰還は、年間追加被ばく量が 1mSv 以下となった場合にだけ推奨さるべきである。日本政府は、その間、すべての避難住民が帰還するかしないかを自主的に判断する上で必要な経済支援を行う義務がある」
「日本政府は、原発をどうするか、避難区域、被ばく限度線量、健康モニタリング、経済的補償額をどう設定するかなどのすべての重要な政策の決定過程に、放射線被ばくに影響を受ける層をはじめとした住民の参加を保証しなければならない」
(文=編集部)