汚染地帯への帰還施策に反対の声は多い
東京電力は12月20日、福島第一原発4号機のプールに残っていた最後の核燃料4体の取り出し作業を公開した。事故当時、4号機には大量の使用済み核燃料が残り、世界を震撼させた。昨年11月から71回におよぶ作業の末、プールは空になった。今後、6号機プールに移されると、1535体あった核燃料による4号機のリスクはなくなる。
だが、建屋内の放射線量が高い1~3号機には、炉内に溶け落ちた核燃料やプールには計1573体が残っている。建屋には毎日約400トンの地下水が原発の山側から流入し、汚染水は増え続けている。汚染水を保管するタンクを増設するのも敷地に限界があり、汚染水を増やさない対策も必要だ。全体の廃炉に向け、作業できるように放射線量を下げ、どう核燃料を取り出すのか、検討課題は山積だ。
一方、政府は事故後3年を経た現在、年間 20mSv以下の被ばく量の汚染地に住民の帰還を進めている。それに対して、「市民と科学者の内部被曝問題研究会(内部被曝研)」は、政府の低線量被ばくに対する評価や政策を見直すべきだと声明を出した。内部被曝研は、医師やジャーナリストなどによって構成され、内部被ばくを含めた被ばく実態に基づく放射線による人体影響の科学的な研究を推進し、市民の立場に立った民主的で科学的な対応が求めて提言・活動を行っている。
最新の科学的知見に基づいた対策を
内部被曝研は声明で、「政府は、大きな誤りに基づいた『汚染地帯』への『帰還施策』をやめ、最新の科学的知見に基づいた対策を実行して住民の健康を守るべきである」と訴えている。その"大きな誤り"の一つは、被災区域の放射線被ばく量をきわめて小さく見積もっている、少ないように印象付けようとしている、というものだ。
●内部被ばくをゼロとして年間被ばく量を計算(被ばく量を4 割引)
CT 検査などの医療被ばくは外部被ばくだけだが、原発事故では内部被ばくも発生している。チェルノブイリでは、外部被ばくが1mSvあれば内部被ばくも必ず0.67mSv 伴っているという前提で住民の被ばく量を計算し、年間総被ばく線量が 1mSv 以下になるように対策を立てていた。ところが日本政府は、内部被ばくをゼロとして計算。日本政府の「公表被ばく線量」は、実際の被ばく量の"4割引"だと指摘している。
●モニタリングポスト操作(線量の5割引)
政府は、原発事故周辺の空間線量が実際より低めにカウントされるように、モニタリングポストの測定機器の変更と周囲からの"放射線ブロック"を行った。これはモニタリングポストに「鉄板が土台に敷かれ」「諸部品が計測部の近くに置かれ」「金網で囲まれている」ため、放射線を遮蔽して「公表空間線量」は実測値の半分となっているのだ。
●個人線量計:内部被ばくを測れずに外部被ばくも大幅割引
空間線量ベースで年間 20mSv 被ばくするはずの地域の住民に線量計を携帯させ、被ばく線量を測定した結果、年間被ばく量が 1~2mSv 程度にとどまったなどというデータを示し、空間線量の高い地域への帰還を進めている。
根本的に「実際の被ばく量」は、個人線量計では測れない。その理由は、「個人線量計はガンマ線しか測定できない」「吸いこんだり呑みこんだりした放射性物質(内部被ばく)のアルファ線、ベータ線は測れない」ため、過小評価されることになる。さらに、放射線被ばくでがんを発病しやすい子どもや女性なども考慮されていない。
国民はもっと、政府の被ばくリスクと線量の過小評価に対して注視し、最新の科学的知見に基づく対策を求めて声をあげるべきではないだろうか。
(文=編集部)