連載第2回 これから起きる“内部被ばく”の真実を覆う、放射能の「安心神話」

ICRPの"フィクション"に踊らされた、「低線量被ばく」の危機意識がない医療関係者たち

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バイオアッセイでの測定もなく帰還は安全? michaklootwijk/PIXTA(ピクスタ)

 ここでは放射線の影「裏」の世界についてお話します。原発事故が起き、放射性物質が拡散しても、医療関係者からの発言が少ないのはなぜでしょうか?

 それは、医師や診療放射線技師、看護師などが使っている放射線防護学に関する教科書が、すべて「ICRP(国際放射線防護委員会)」の基準で書かれているからです。文部科学省が学校に配った副読本なども、その基準で書かれています。

 ICRPは、国際的な権威のある公的機関ではありません。研究機関や調査機関でもない、民間のNPO組織です。その目的は原子力政策の推進にあります。このため、「IAEA(国際原子力機関)」や「UNSCEAR(国連放射線影響科学委員会)」などと手を組み、原子力政策を推進する上で、支障のない程度の報告書を出しています。

 報告書は、各国の御用学者が会議に招聘され、都合のよい論文だけを採用して作られています。ICRP自体が、調査・研究することはありません。ICRPには事務局が存在しても研究者はいないため、多くの医学論文で低線量被ばくの健康被害が報告されても、反論できずに無視する姿勢をとっています。国際的に放射線防護体系として流布しているICRPの理論は科学性に乏しいのです。

 つまり、ICRPの放射線防護学は、原子力政策を進めるために作られた"フィクション"のようなもの。そのため、ICRPの内容が頭に刷り込まれた医療関係者は、政府のデタラメな健康管理対策にほとんど危機意識を持たず、傍観者になっているのが現状です。日本では、ICRPに関与する学者やICRPの報告に詳しい有識者が政府・行政の委員会のメンバーであるため、"国民不在の対策"という構図に陥っています。

モニタリングポストは4割程度低く設定している?

 ここでは国民の皆さんに、放射線による健康被害について知っていただきたいと思います。まず、放射線の測定でいま議論されているのはガンマ線だけです。そのガンマ線は、モニタリングポストを設置して測定していますが、現在使われている富士電機の測定機器は、実際よりも約4割低い値になるように設定されています。

 2014年4月26日、私はボランティアで行っている子どもたちの甲状腺超音波検査のために福島県須賀川市を訪ねました。検査会場となった公民館前に設置されていたモニタリングポストを調べてみると、0.11マイクロシーベルト(1時間当たり)。しかし私が、病院で使用する測定器で調べると0.19マイクロシーベルトでした。

 つまり、私の線量計の数値を100%とするとモニタリングポストの値は58%で、4割程度低くなっています。この問題は『週刊朝日』2014年2月14日号で「国の放射線測定のデタラメを暴く」と題して報じられました。モニタリングポストは地上1メートルの高さにありますが、地面直上だと放射線量は2倍以上になります。放射線量の値をごまかし、事実を隠しているとしか思えません。

「バイオアッセイ」を行う姿勢すらもたない政府

 ガンマ線ですら、そのようなレベルの調査。それ以外のアルファ線やベータ線は、計測すらきちんと行われていません。この2つを調べるには、「バイオアッセイ(排泄物などの生物学的試料を分析する方法)」が必要です。トリカブトやヒ素を使ったことが疑われる殺人事件が起きたら、警察はバイオアッセイして被害者の毒物を測ります。

 ところが、多くの国民の健康被害に関係するにもかかわらず、国はアルファ線やベータ線をバイオアッセイで測ろうとする姿勢をまったく持っていません。これでは「科学的に物事を検証する気がないのか」「事故による将来の被害を隠蔽するためか」と勘ぐられても仕方ありません。
 
 これまで、低い値でも放射線による健康への影響が出た事例は数多く報告されています。放射線の影響に「しきい値」(閾値)はないというのが、世界の共通認識です。最近のICRPの勧告でさえも「1シーベルト浴びると、5.5%の過剰発がんがある」と認めています。

 この計算でいけば1億人が1ミリシーベルト浴びたら、5500人は過剰発がんになるという計算になります。いま福島の人に強いている年間20ミリシーベルトなら11万人が過剰発がんになるということです。

西尾正道(にしお・まさみち)

北海道がんセンター名誉院長、北海道医薬専門学校学校長,北海道厚生局臨床研修審査専門員。函館市生まれ。1974年、札幌医科大学卒後、独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター(旧国立札幌病院)で39年間がんの放射線治療に従事。2013年4月より現職。著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、『がんの放射線治療』(日本評論社)、『放射線治療医の本音‐がん患者2 万人と向き合って-』(NHK 出版)、『今、本当に受けたいがん治療』(エムイー振興協会)、『放射線健康障害の真実』(旬報社)、『正直ながんのはなし』(旬報社)、『被ばく列島』(小出裕章との共著、角川学芸出版)、『がんは放射線でここまで治る』(市民のためのがん治療の会)、その他、医学領域の専門学術著書・論文多数。

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