日本でもフェンシクリジン(PCP)による死亡例が報告(shutterstock.com)
最近の危険ドラッグには、各種の麻薬成分が含まれていることが数多く認められるようになった。それに伴い、危険ドラッグ中毒患者の重症化、時には死に至るケースも報告されている。また、常用することで依存症に陥ることも問題視されており、長期間の精神科的治療やケアを要する症例も増加している。
本年の日本中毒学会総会では、麻薬成分含有ドラッグに関する症例報告、化学分析に関する報告が多かった。その中でフェンシクリジン(PCP)およびその類似体による中毒に関する報告が注目されたので報告する。
死因は危険ドラッグの直接的影響による心停止
東京大学大学院医学系研究科法医学の槇野陽介医師は、自宅でタバコの先に粉末状のドラッグを付着させて吸引し、同居人に発見された時には既に死亡していたという、30歳代男性の症例を報告した。
解剖の結果、致死的外傷はなく、誤嚥による気道閉塞の所見も認められなかった。急性死を示唆する諸臓器のうっ血を認めたが、特に腎臓の尿細管のミオグロビンの沈着を確認したため、横紋筋融解症による急性腎不全を引き起こしたものと考えられた。また、尿と血液より、合成カチノンであるα-PVP、α-PHP、αPNPとともに、フェンシクリジン類似体である3MeO-PCPが検出された。
死因は危険ドラッグの直接的影響による心停止や呼吸抑制、それに急性腎不全も加わったものと診断された。この症例は、危険ドラッグ中毒患者の重症化、複雑化を象徴したものである。法医学教室による尿、血液の分析が行われたため、危険ドラッグ中毒死と確定診断された。
また、国立国際医療研究センター病院救急救命センター救急科の佐藤洋祐医師は、34例(男性26例、女性8例)のフェンシクリジン類似体による急性中毒に関する症例報告を行った。眼振は21例、痙攣は8例に認められ、不穏状態を呈したのは21例であった。22例で入院治療を要し、3例が人工呼吸管理を必要とする重症例も認められた。幸いにも死亡例はなかった。