連載第9回 恐ろしい危険ドラッグ中毒

最悪の危険ドラッグ 続報 ロシア発の「クロコダイル」は余命わずか1~2年

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あまりにも恐ろしいドラッグクロコダイルshutterstock.com

 

 2002年にロシアのシベリア地方での製造、使用が報告され、2010年以降にはロシア全域で爆発的に広まったデソモルヒネ(クロコダイル)に注目が集まっている。本来デソモルヒネは、モルヒネの10倍の鎮痛作用を有する鎮痛剤として開発された。

 しかし、ロシアでは医師の処方箋なしでも100ルーブル(日本円で250円程度)と安価で購入可能なコデインを原材料として、ヨードやガソリンを添加することによって、化学的知識のない素人でも簡単に製造できる合成麻薬が話題となっている。 

 デソモルヒネ常習者に認められる症状としては、注射部位の血管が破壊され、血流が停止して、筋肉の壊死を起こす。周辺の皮膚は緑黒色に変色する。更に骨が露出して、四肢の切断を余儀なくされることとなる。生命予後も極めて不良であり、1~2年との報告もある。 

 私は、『ロシア・プラウダ』に掲載されたデソモルヒネに関する記事を解説し、その恐ろしさの実態を報告する。 

貧困と中毒の悪循環で人生を失う女性たち

 ロシアのUfa(ウファ)市の警察はデソモルヒネの製造拠点であるアパートの一室を捜索した。そこでひとりの妊婦と2人の若い女性が、昏睡状態に陥っているのを発見。ロシアでは最も危険な合成麻薬であるデソモルヒネ(クロコダイル)が製造されているのを発見した。デソモルヒネはヘロインとは異なり、誰でも簡単に製造、入手できる合成麻薬である。原材料は薬店で、医師の処方箋なしで購入可能な風邪薬であるコデインである。クロコダイルに手を染めた人は、そこから悲惨な人生を送ることになる。 
 
 アパートの部屋の居住者は28歳の男性で、1年前の母親の死が契機となり、うつ状態に陥った。ウオッカを飲み始めたが、心は癒されなかった。自殺したいと思うようになったある日、彼の友人にクロコダイルの使用を勧められた。その後多くの仲間とともにクロコダイルを製造、常用するようになった。捜査時に発見された3人の女性も仲間に迎え入れたものだ。彼はその場で逮捕された。  
 
 女性3人が覚醒した後に、警察官が質問したところ、全員が30歳以下であった。ひとりの女性はアパートの近所に住んでおり、毎日のように10歳の息子を連れてやってきていた。自分自身が入室して、クロコダイルを注射している間は息子を一人外で待たせていたのだ。女性たちはほぼ1年間クロイコダイルを注射するためにアパートに通い詰めたが、それ以前は学校、種々のパーティーなどで快楽を得るためにマリファナを常習していた。

 その後インド大麻やヘロインも摂取するようになった。しかし金銭的に入手困難となったため、その後はより安価なクロコダイルに手を出したとのことであった。 彼女たち自身は、時には悲惨な状況から逃れたいと思うときもあったようだが、診察した医師からは、「もう手遅れで治療の仕様がない」と宣告された。

 ひとりの女性は、アルコールや麻薬常用者の更生施設に入所した。そこでは暴力行為や辱めを受けたりすることが日常茶飯事であった。ある年にひとりの収容者が死亡したが、施設は何事もなかったかのごとく継続運営された。彼女はクロコダイルの恐怖だけではなく、劣悪な施設でさらなる地獄を見たのであった。施設内で作業をして得るべき収益も搾取されてしまった。その後幸運にも施設より抜け出すことができたが、将来の生活には希望を持てず、身体的にも衰弱して死を待つのみとなった。 
 
 アナトリー ベレストフ医師は「ヘロイン常習者は離脱、治癒する可能性もあり、6~7年は生存できるが、デソモルヒネは使用したら2年以下しか余命は期待できない。一度使用しただけで死に至る麻薬と言われている所以である。デソモルヒネは恐ろしい麻薬である。国家はこれらの若者を救うため、何らかの対策を講じなければならない」と述べている。 
 
 このクロコダイルは最近、ドイツでも認められたとの報告がある。今後欧州、わが国を含むアジア、アフリカなどにも広がる恐れがあるため、その危険性をしっかり認識しておくべきだ。


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横山隆(よこやまたかし) 
札幌中央病院腎臓内科・透析センター長、日本中毒学会評議員(同学会クリニカルトキシコロジスト)、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医 

1977年札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。 
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。
連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

横山隆(よこやま・たかし)

日本中毒学会評議員(同学会クリニカルトキシコロジスト)、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長。2015年8月に同病院退職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

横山隆の記事一覧

横山隆
「新型うつ」はどう治す?~心理的な背景にある〈偏り〉の改善がカギに
インタビュー「職場でのうつ病の再発を防ぐ」秋山剛医師(NTT東日本関東病院精神神経科部長)第2回

うつ病の仲間とともに再発を防ぐためのプログラム「うつ病のリワーク」が注目を集めている。今回は、いわゆる「新型うつ」について、 NTT東日本関東病院精神神経科部長・秋山剛医師に話を聞いた。

精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年…

里中高志

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センタ…

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タイ式ヨガ「ルーシーダットン」マスターコース認定…

五十嵐あゆ子