連載第11回 恐ろしい危険ドラッグ中毒

ダイエット用サプリに紛れ込む覚醒剤 あるメジャーリーガーの悲劇

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ダイエット用サプリ「エフェドラ」は、スティーブ・ベクラーの死後、メジャーリーグでも禁止薬物となった shutterstock.com

 みなさんは2000年頃に、スティーブ・ベクラーというメジャーリーガーが在籍していたのをご存じでしょうか。恐らく大多数の方は、「名前も聞いたことがない」と言われるでしょう。

 彼は本職の野球ではまったく実績を残すことができませんでしたが、愛用していたサプリメント「エフェドラ」によって命を落とすことになり、これが大きな社会問題となって波紋を広げることになったのです。

 スティーブは高校時代、花形野球選手(投手)として、将来を嘱望されていました。1998年、メジャーリーグのドラフト3巡目にボルチモア・オリオールズに指名され、晴れてメジャーの道を歩むことに。

 しかし、彼はその後伸び悩み、マイナーリーグでの修練を余儀なくされました。ようやく2002年9月にメジャー・デビユーとなりましたが、3ゲームに登板しただけで1勝も挙げることはできませんでした。

 そしてスティーブは、230ポンド(約104kg)の体重を減量し、活動性を高め、筋肉質の体を作る目的で、それが有害であるというトレーナーの制止勧告を振り切って、サプリメント「エフェドラ」を愛用し続けました。 
 
 2003年2月16日、ティーブは、フロリダのスプリング・キャンプでトレーニング中、突然、倒れて意識を失い、病院に救急搬送されました。体温は42℃と高く、頻脈を認め、ついに意識は戻らず、翌日に死亡しました。解剖を担当した医師によると、肝臓の機能が低下し、高血圧を呈していたとのこと。減量のためエフェドラを常用し、この2日間絶食したといいます。死因は急性心不全、呼吸不全でした。 

エフェドリンは覚醒剤の原料としても使われている

 エフェドラは生薬「マオウ(麻黄 )」と同じで、咳止め、解熱、発汗作用を有する成分として、主に漢方薬の形で使用されています。マオウ(麻黄 )は「エフェドリン」という成分を含有しており、葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)などの名前で売られています。また、日本でも流通している市販の感冒薬には、エフェドラと同じ成分のエフェドリンが含まれています。

 1980年頃より米国では、エフェドリンが有する基礎代謝率の亢進、また、エネルギーの消費作用などに注目して、ダイエット商品としてエフェドラを市場に流しました。ただし、エフェドラに含まれるエフェドリンの含有量は不均一で、表示量と実際の含有量は一致せず、極めていい加減なものでした。

 その結果、1990年頃より、エフェドラの愛用者間で、心臓発作、呼吸不全、脳卒中などで突然死する症例が相次ぎました。米国食品薬品局は規制に乗り出しましたが、サプリメント業界の圧力を受け、十分な効力を発揮することができませんでした。 
 
 スティーブの死亡時、国際オリンピック委員会(IOC)、米国大学体育協会、アメリカンフットボールリーグでは、エフェドラの使用が禁止されていましたが、メジャーリーグでは広く使用されていました。彼の死後、彼の両親が米国議会に働きかけ、米国食品薬品局を動かし、2003年12月には使用が規制され、メジャーでも禁止サプリメントなりました。           

 しかし米国では、現在でもインターネットの通販サイトや健康食品店などで、簡単にエフェドラを入手することができます。日本でもインターネットを利用して「輸入」することが可能です。

 危険ドラッグの化学分析が十分普及していない現状を考慮すると、現在、流通している製品にもエフェドリンは含有されている可能性があります。エフェドリンは覚醒剤の原料としても使われ、今後、輸入製品はもとより国内で生産される危険ドラッグの中に、エフェドリンが混入される恐れも十分あると思います。 

 危険ドラッグを作らない、購入しない、使用しないの「3ない」を徹底する必要があるでしょう。
       

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横山隆(よこやまたかし) 
札幌中央病院腎臓内科・透析センター長、日本中毒学会評議員(同学会クリニカルトキシコロジスト)、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医 

1977年札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。 
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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