連載第10回 恐ろしい危険ドラッグ中毒

危険ドラッグに混在する合成麻薬「チャイナホワイト」の恐怖

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合成麻薬チャイナホワイト 神奈川県HPより

 2013年3月よりアメリカのロードアイランド州で合成麻薬である「アセチルフェンタニル」を注射して14名の死者がでた。19~57歳でうち10 名が男性であった。ほとんどの症例がコカイン、ヘロイン、エタノールなどを飲み、通称「チャイナホワイト」とも呼ばれるこの合成麻薬を注射して突然死した。保健福祉省が注意喚起したが、その後ネブラスカ州などにも飛び火して多数の犠牲者が出た。 

 チャイナホワイトが生成される前の段階の物質である「前駆体」は麻酔薬、鎮痛薬として医療機関で用いられているフェンタニルである。フェンタニルの効果はモルヒネの100倍あるといわれる。呼吸を抑制する作用が強いことで知られる。注射液は麻酔、鎮痛剤として、またパッチ薬はがん性疼痛緩和に使われている。またアメリカの軍隊ではフェンタニルにモルヒネを併用して、鎮痛トローチとして使用されている。 
 
 1979年にカリフォルニアで報告された中毒患者2人の死亡例では、ヘロインの使用歴があり、解剖所見もヘロインの過量摂取による中毒死と一致していた。しかし、毒物分析ではヘロインやその代謝物が一切検出されなかったという。その後も同様の死亡例が相次ぎ、アメリカの麻薬取締局(DEA)による分析の結果、問題の薬物はアセチルフェンタニルであり、強力な麻酔・鎮痛薬として医療用に使われるフェンタニルに類似した化学構造の化合物であると発表されている。

 この合成麻薬チャイナホワイトは、ヘロインの「デザイナードラッグ」とも評されており、効果、副作用、禁断症状などがヘロインとほぼ同じかそれ以上で、ヘロインよりも安上がりであるために使用者が急増している。

強力な合成麻薬の国際化の波が日本にも

 2014年の日本中毒学会総会・学術集会で千葉大学大学院医学研究院法医学教室の本村あゆみ先生が、20歳男性が自宅で前かがみの状態で死亡しているのを家族に発見された症例を報告している。

 2年前に危険ドラッグを吸引して、興奮状態、動悸などを訴えて、病院に救急搬送された既往歴を有していたこの男性の近くから、危険ドラッグであるZOMBIE、ANGELA、ALADDINと印刷された袋が発見された。血液と尿を分析すると、チャイナホワイトが検出され、ANGELAにも同一成分が認められたことから、この症例はチャイナホワイトアを摂取後に死に至ったものと診断された。 

 危険ドラッグの成分分析、摂取した患者の血液や尿を検査する体制は、わが国ではごく一部の研究施設に留まっているのが現状である。特に一般の救急医療病院内での検索は不可能に近い。現在、社会に流出している危険ドラッグには、アセチルフェンタニルなどの極めて危険で、生命を脅かす成分が混在している可能性が十分考えられる。つまり危険ドラッグと麻薬の区別が不可能になっているのである。
 
 また危険ドラッグ、合成麻薬の「国際化」も顕著に認められる。ロシア産のデソモルヒネ(クロコダイル)が瞬く間にドイツなどのヨーロッパ諸国に流通し、数多くの被害が報告されている。近いうちにわが国にも伝播する危険性があると懸念されている。さらに昨年秋頃から国内で多くの死者を出している「ハートショット」など、突然死に至る強力な危険ドラッグによる被害も憂慮されている。 

 危険ドラッグを密造しない、流通させない、使用しないの「3ない社会」を早急に作らねばならない。


連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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