顔面神経麻痺のリハビリで、最も大切なことは「頑張らないこと」だと園田先生は言う。
「顔面神経では顔のいろいろの場所に行く神経が密接しているため、再生した神経が誤った筋肉に繋がってしまうこと、つまり迷入を避けるのが大切です。手足の麻痺のリハビリでは手足をなるべく使うようにするのが原則ですが、それとは違い、顔面神経麻痺のリハビリでは頑張らないことが重要になります」
具体的なリハビリのプログラムは、次の通りだ。
「リハビリは、顔を動かすことや低周波刺激を控え、マッサージやストレッチングにより顔の筋肉の短縮予防を行います。逆に言うと動くからといってその動きを強めようと頑張ってはいけない、ということです」
マッサージやストレッチなど、日々の地道な努力が、リハビリ効果を高めることは、言うまでもない。TKO木下さんは、軽度の症状だったため、仕事にも復帰できたが、もし重度の症状だったら、どのようなリハビリになるのだろう。
「神経のダメージ(神経の軸索が途切れてしまっている度合い)が重症度になります。ダメージが大きいと、繋がっている神経と再生する神経との比を考えた時に再生する神経の割合が大きくなり、結果的に迷入の危険性が増します。ですから、動かそうと頑張らないようにすることが、よけい大切になります」
重症度が増すと、顔面神経麻痺の後遺症(病的共同運動・顔面拘縮)や不全麻痺の可能性も生じる。その場合のリハビリは次のようになる。
「病的共同運動とは、神経の迷入の結果、いろいろな顔の動きが一緒に起こってしまうことです。たとえば、口笛を吹くように口をすぼめると目が閉じる、目を閉じると同時に鼻唇溝が深くなる(口角が横に引かれる)などです。顔面拘縮の『拘縮』は、動かない、さらに動かさないために、周囲の結合織同士が繋がって結果的に他動的にも動かない範囲が出来てしまうことです。完全麻痺の時や、意図的に動かさない場合に拘縮が起こります。拘縮を防ぐために、マッサージやストレッチングを行います。まぶたを持ち上げるための神経は顔面神経ではないので、この動作は拘縮予防のために行って構いません」
重度の症状を防ぐためにも、早期の治療やリハビリが必要不可欠だ。さらに顔面神経麻痺リハビリのモットーは「治りたい一心で無理やり動かそうとしてはいけない」。ぜひ心がけたいものである。
(取材・文=夏目かをる)