EDの治療薬として華々しく登場した薬が「バイアグラ(Viagra)」だ。この薬は、VIPとは別の勃起誘発物質(一酸化窒素によって細胞内に増加するサイクリックGMP)の分解を防ぐことで効果を発揮する。つまり、勃起を長く保てるのだ。
この命名はなかなかしゃれている。Viagraとは、生命を意味する「vita」とナイアガラ=「Niagara」の合成語。ナイアガラの滝のように激しい"いのち"を与える薬なのだ。
山之内製薬から脳代謝賦活剤として発売されている「エレン」という錠剤は、勃起する副作用が知られている。この効用は、どうやら陰茎におけるVIPの放出作用によるらしい。滋養強壮によいとされる朝鮮人参エキスにも、VIPに類似した物質が含まれているという。
しかし、VIP軟膏なる奥の手は、残念ながら無効である。なぜなら、陰茎海綿体組織は、結合組織性の厚い白膜で包まれており、塗り薬の成分は中までとうてい染み込まないからである。
VIPを過剰に産生する腫瘍が膵臓や副腎髄質に発生すると、大量の水様性下痢が認められる。国立がん研究センターの、とある先生の談話を最後に紹介しよう――。
あるとき、VIP過剰症状を示す男性患者さんに尋ねた。「もしかして、立ち(勃起)ませんか?」と。すると主治医と患者さんの双方から、ひどく叱られたそうだ。「こんなひどい下痢なのに立つわけないだろう!」。