連載第4回 東洋医学と西洋医学の接点

がん患者の嘔吐、食欲不振、味覚障害に速効性がある鍼灸治療とは?

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 私は吐き気や嘔吐を抑えることを最優先に治療を開始した。患者は身長が170cmなのに体重は48㎏まで落ちてしまい、ずいぶん痩せて見えた。栄養失調と貧血状態が起きているので、刺激のある針治療ではなく、侵襲性の低いお灸を施すことに決めた。

 有効なツボはたくさんあるが、患者に過剰な負担がかからない少数特効なツボを選び、手首の内側の少し上部にある内関穴(ないかんけつ)と、へそとみぞおちの間にある中晥穴(ちゅうかんけつ)などに、箱灸によるお灸をした。箱灸は当院で人気がある特別なお灸だ。長さ13cm、幅6cm、高さ8cmの木製箱の中には金属の網があり、皮膚に直接触れない位置にもぐさを置きお灸をする。箱内部の空間を温め、そこから患部に熱を伝えるため、やわらかい熱感がじわじわと広がって、皮膚から内臓までしみるように温かくなる。患者は箱灸を受けているうちに「胃のほうが温かくなり、ゴロゴロ動いている。腸からもゴロゴロ鳴る音が聞える」などと言う。そして、しばらくするとオナラを連発するようになる。

 治療後、この患者の顔色はピンク色になり、吐き気もおさまり、元気そうになってきた。そして「今は吐き気が止まりましたが、夜にまた再発しませんか?」と不安げに訊ねた。私は「治療は1回だけで完了ではなく、継続すれば、吐き気が止まって食欲も出るでしょう」と答えた。

 翌朝、患者から電話があった。彼は「治療後に体が楽になり、吐き気もない。夕食時、試しに薄いお粥を2~3口食べても平気でした。結局、茶碗一杯のお粥を食べた。夜にも吐き気が起こらず、安心して熟睡できた。お灸がよく効くことが分った」と話し、「今日も先生の治療を受けたい」と強く望んだ。

 結局、彼は当院の治療を3回受け、吐き気や嘔吐は完全に消失した。食欲も普通に戻り、唇の痺れと金属味も消えた。もっとも大きな効果は、抗がん剤の治療を最後まで継続することができたことだ。
 
 抗がん剤治療による吐き気、嘔吐、食欲不振に対する鍼灸治療による効果は、9割以上の患者に見られる。つらい抗がん剤の副作用解消法のひとつとして、中医学を試してみてはいかがだろうか。


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孫 迎

孫 迎(そんげい)
1985年中国上海中医薬大学卒業。元WHO上海国際針灸養成センター上海中医薬大学講師、上海市針灸経絡研究所主治医師1987年糖尿病について優秀な研究成果で、中国厚生省の三等奨を獲得。来日後、早稲田大学大学院臨床心理学修了。中国医学開発研究院理事長、専任教授。呉迎上海第一治療院副院長。
●得意分野:婦人病、不妊症、痛症、運動系、リウマチ、内科、内分泌科等。

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呉澤森(ご・たくしん)

呉迎上海第一治療院院長。中国上海中医薬大学院卒業。元WHO上海国際針灸養成センター講師、元上海針灸経絡研究所研究員、主任医師。1988年、北里東洋医学研究所の招待で来日。現在、多数の針灸専門学校の非常勤講師を務め、厚生大臣指定講習会専任講師、日本中国医学開発研究院院長、主席教授、日本中医臨床実力養成学院院長なども兼務している。『鍼灸の世界』(集英社新書)が有名。
●得意分野:不妊症、内科全般、生殖泌尿系統、運動系、脳卒中後遺症、五官科(目(視覚)・耳(聴覚)・舌(味覚)・鼻(嗅覚)・皮膚(触覚)。特に眼科)等

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呉澤森
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日本初の『胃弱外来』開設」後編:巣鴨駅前胃腸内科クリニック・神谷雄介院長

前編『大病院を転々した末にたどり着く「胃弱外来」 初診から約1カ月で8割の患者の症状が改善』

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Doctors marche アンダカシー
Doctors marche

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村上勇

精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年…

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