連載第3回 東洋医学と西洋医学の接点

抗がん剤治療で激減した白血球数を鍼灸で回復、治療継続が可能に

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鍼灸の科学的なエビデンスの研究も盛んだshutterstock.com

 がんと診断されたら、手術、抗がん剤の投薬、放射線の照射、さらにはそれらの治療方法の組み合わせが一般論である。当然、こうした治療は必要であることはいうまでもない。しかし、治療を受けたがん患者さんの状況を見れば、がんの徹底的な治療とは言えない部分が出てくる。これらの治療法にはほとんどの場合副作用が生じるからだ。さまざまな副作用で患者さんが苦しむのは本当に残念なことである。

 なぜ酷い副作用が起きるのか。それは、西洋医学におけるがん治療の不十分で未解決な部分である。そこで、補完治療としての鍼灸、漢方などの治療が必要で、西洋医学よりうまく解決できる実例を臨床現場では非常に多く経験している。その中からまず、鍼灸による補完的治療を紹介する。

 平成15年夏ごろ、神奈川県から来た患者さんは原発性の膵臓がんで、胃へ転移もあった。手術中、がんが広範囲で癒着していたため摘出手術がうまくいかず抗がん剤治療となった。
 
 ところが、入院でおこなった3回目の抗がん剤投与により、白血球数が急速に下がり、担当医がいくらの白血球を上昇させる薬を投与しても、白血球数がなかなか上らず、悪心、嘔吐も頻発し、髪の毛の脱けも続いた。

 2週間後、担当医は「いろいろな薬を使っても、白血球数が上がらないので、帰宅して療養してください。白血球数が上がったら、抗がん剤の点滴を再開しましょう」と告げ、退院させられた。退院1週間後に、再度血液検査しても、白血球数に変動は無く1900/μℓであった。

 この方は、「手術もできない、抗がん剤治療もできない、死ぬしかない」と絶望感にさいなまれてしまった。その時、私が書いた『針灸の世界』(集英社新書)を友人から紹介され、彼は本を読んで早速来院したという。

抗がん剤治療下激減した白血球数が回復

 初診時には、蒼白な顔色の彼は低い語勢で途切れ途切れに話す。「めまいがひどい。元気も全々ない。毎日横になってばかりいる」脈診は沈んで取りにくい。舌診は白い苔で、舌辺には歯痕が深く残っている。血液検査データを読めば白血球1700/μℓ、血小板8.2万/μℓある。これは抗がん剤の細胞毒のために、人の気を大量に消耗し、酷い気虚証になっていると考えられた。気虚証は簡単に言えば、元気が無くやる気が出ないような状態だ。

 大補正気(身体の不均衡を是正し元気を取り戻す)、白血球を上昇させる治療原則を立て、百会(ひゃくえ)、扶正五要穴(ふせいごようけつ)、足三里、内関などのツボに鍼灸を行った。

 治療後、患者さんの顔色はややピンク色になり、話す声も前より大きくなった。そのまま週に2回の治療を計画した。5回目来院時に、「先生、鍼灸が効いたよ。昨日、病院の血液検査を受けて、白血球は3900/μlになっていた。信じられない。すぐに、抗がん剤の点滴を再開したよ」と笑顔で報告した。

 その後、鍼灸治療により白血球の正常範囲(3,500~9,800/μl)を守りながら、無事に3カ月の抗がん剤の治療は終了させた。

 この症例の成功が口コミで広がり、がん専門病院などからの紹介もあって、白血球上昇のために来院するがん患者が急増した。今まで285名の患者さんに対して治療を行い、その有効率は85%となる。

 なぜ抗がん剤の投薬による白血球数の減少を、鍼灸治療で改善させ、正常範囲に戻すことが可能であるのか?

呉澤森(ご・たくしん)

呉迎上海第一治療院院長。中国上海中医薬大学院卒業。元WHO上海国際針灸養成センター講師、元上海針灸経絡研究所研究員、主任医師。1988年、北里東洋医学研究所の招待で来日。現在、多数の針灸専門学校の非常勤講師を務め、厚生大臣指定講習会専任講師、日本中国医学開発研究院院長、主席教授、日本中医臨床実力養成学院院長なども兼務している。『鍼灸の世界』(集英社新書)が有名。
●得意分野:不妊症、内科全般、生殖泌尿系統、運動系、脳卒中後遺症、五官科(目(視覚)・耳(聴覚)・舌(味覚)・鼻(嗅覚)・皮膚(触覚)。特に眼科)等

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