連載第4回 東洋医学と西洋医学の接点

がん患者の嘔吐、食欲不振、味覚障害に速効性がある鍼灸治療とは?

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箱の中の金網の上で灸を焚く「箱灸」。shutterstock

 がん治療では、手術の前後、あるいは手術ができないとき、抗がん剤治療を行うことがある。しかし、抗がん剤治療を受けた後には、吐き気、嘔吐、食欲不振、さらには味覚障害などの副作用が現われ、患者は非常に苦しい思いをすることがある。このような副作用が継続すれば、がん患者の体力はますます消耗し、容体も悪化しかねない。

 もちろん病院では、制吐剤や鎮痛剤など緩和対策を講じるが、副作用の改善が見られない場合は、抗がん剤治療を中止せざるをえなくなってしまうだろう。そこで今回は、抗がん剤の副作用である、吐き気、嘔吐、食欲不振、味覚障害に対する鍼灸治療を紹介しよう。

 吐き気、嘔吐、食欲不振に関する鍼灸治療は、中医の古い文献にも見ることができる。たとえば、明(1368〜1644年)の時代に記された『鍼灸神應経』には、「嘔吐不得食(嘔吐、食べたくない意)の時、足の親指の末端の内側にある隠白穴(いんぱくけつ)、背中にある心兪穴(しんゆけつ)、へそとみぞおちの間にある上晥穴(じょうかんけつ)を取ればすぐに効果がある」と記されている。

 現在では、このような鍼灸治療だけでなく、さらに多くの有効症例がわかっている。その中でも、私が実際に経験した症例を紹介しよう。

患者に負担がかからないツボに箱灸で治療

 胃がんと肺がんに罹患した60代の男性は、広範囲にがん細胞が転移したため手術ができず、抗がん剤の点滴治療を受けていた。しかし、治療中に抗がん剤による副作用が出て、吐き気や嘔吐が頻繁に起き、口唇が痺れ、口の中にはいつも金属味が残った。食欲はまったくなく、食べ物を口に入れると吐いてしまう。病院では、ビタミンB6、B1などが投与されたが効果はなく、体重は1週間で55㎏から48㎏まで急激に下がってしまった。

 入院中だった彼は、担当医の同意を得て当院の治療を受けた。初診時、患者の顔色は蒼白で、眼瞼結膜(がんけんけつまく)がまっ白であり、これは栄養失調や貧血を示す状態だった。問診の際は頻繁に吐き気を訴えたので、家族が代わって答えた。

「1週間ほどなにも食べていない。毎日ブドウ糖の点滴を受けていた。最初のころは少し食べられたが、すぐに吐いてしまった。ここ数日は、食べなくても吐く。吐くものがないので、血が混じった痰とつばだけになっている。かわいそうで、先生、助けて下さい」

呉澤森(ご・たくしん)

呉迎上海第一治療院院長。中国上海中医薬大学院卒業。元WHO上海国際針灸養成センター講師、元上海針灸経絡研究所研究員、主任医師。1988年、北里東洋医学研究所の招待で来日。現在、多数の針灸専門学校の非常勤講師を務め、厚生大臣指定講習会専任講師、日本中国医学開発研究院院長、主席教授、日本中医臨床実力養成学院院長なども兼務している。『鍼灸の世界』(集英社新書)が有名。
●得意分野:不妊症、内科全般、生殖泌尿系統、運動系、脳卒中後遺症、五官科(目(視覚)・耳(聴覚)・舌(味覚)・鼻(嗅覚)・皮膚(触覚)。特に眼科)等

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