連載第15回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”

あなたは会社に「介護休暇」を申請できますか? "介護離職"を食い止める!

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介護休業等制度を利用している人は、まだ少数派?shutterstock.com

 介護と仕事の両立は難しい。とはいえ、両立させようという人が少しずつ増えているのはたしかなようだ。

 平成24年の「就業構造基本調査」によれば、介護をしている雇用者(239.9万人)のうち介護休業等制度の利用者は37.8万人(15.7%)となっている。その内訳は、介護休業が7.6万人(3.2%)、時短勤務が5.6万人(2.3%)、介護休暇が5.5万人(2.3%)、その他が19.7万人(8.2%)となった(表を参照)。調査概要には「その他」の項目の詳細はないが、有給休暇や事業所の独自制度等の活用も含まれているのだろう。この数字の大小をどう見るかは別として、利用可能な制度を組み合わせながら、なんとか介護と仕事の両立という難題を乗り切っている人もいるようだ。

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 介護は育児と違い、何カ月でケリがつくという予測が難しい。そのため、まとめて規定の日数を消化してしまうより、いざという時のために残しておいたほうがいいこともある。企業によっては、独自に法律より長い休暇や支援制度を用意しているところもあるので、就業規則を確認してみよう。

 ただ、これまで会社に弱みを見せず、プライベートを持ち込まずに仕事に邁進してきた人は、部下にも同じように指導してきた手前、いざ自分が介護者となった時に休暇を取るとは言いづらい。部下や同僚に迷惑をかけるからと潔く退職を選ぶ人もいるかもしれない。

 しかし、それは最後の手段だ。働き盛りの人の多くは、家のローンも抱え、子どもの教育費もかかる時期だからこそ、なんとか仕事を続ける方策を練って粘るべきである。介護休業制度を取りづらい雰囲気があったとしても、パイオニアとして切り拓いてみてはどうだろうか。介護休業制度すらない小さな会社でも、互いの顔が見える関係の中で、時短勤務やフレックスタイム、短期休暇などで融通を利かせてもらい、離職は避けるべきだ。

介護退職対策が迫られている

 

 企業サイドとしても、介護による離職を防ぐ手だてを考える時期に来ているのではないか。介護によって休みがちになると異動になる、あるいは昇進が遅れるということがあるから、「隠れ介護」になりがちだ。そういう社員は、介護休業を取ることなく、いきなり離職してしまうことが少なくない。

 たとえば、厚生労働省が音頭をとって、介護休業を取得した会社になんらかのインセンティブを出すというのはどうだろうか。体力のある大企業は別として、中小企業に対する支援だ。介護休業制度の利用人数・社員比に応じて補助金を出す、減税する等々いろいろ方法はある。介護休業の取得率が高いことも、企業イメージを高めることになるのではないか。

 介護休業等の支援策が進めば、申請者が取得者が激増してコスト増になるのでは、と恐れる経営幹部も少なくないかもしれない。だから「寝た子を起こしてはならない」というのかもしれない。


 しかし、いま進行している事態は、まったく逆のことを喚起している。介護退職が放置されれば、本人はもちろんのこと職場も国も自治体も、それこそ四方大損になる。「寝た子を起こさなければ」、この会社の、そしてこの社会の存亡の危機であるという認識こそ、今日的な危機管理ともいえよう。

 介護を「辛くて大変、できれば避けたい」ということではなく、家族のケアに接続可能な生き方や働き方こそ実は人生を豊かにできるのではないか、そのことを可能とする取り組みこそ未来に開かれた組織のテーマではないか――というポジティブメッセージと共に、介護と仕事の両立課題が広がっていけばうれしい限りだ。

連載「いつかは自分も......他人事ではない"男の介護"」バックナンバー

津止正敏(つどめ・まさとし)

立命館大学産業社会学部教授。1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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