DTC遺伝子検査は、毛髪、爪、頬の粘膜、唾液などの採取試料(検体)を郵送するだけで受けられる shutterstock.com
世界各国の企業がしのぎを削る「遺伝子検査ビジネス」。前回は、遺伝子の基本的な仕組みについて説明した。今回から3回に分けて、DTC(消費者向け)遺伝子検査の問題点を洗い出す。
その前に、まずはDTC遺伝子検査は何を検査するサービスなのかを理解しておこう。DTC遺伝子検査のカテゴリーは、非医療分野と医療・非医療の境界が曖昧な分野に大別できる。
非医療分野は、DNA鑑定事業(親子鑑定、血縁鑑定)、DNA保管、運動能力(短距離型、長距離型など)、知能指数(記憶力、想像力など)、心の知能指数(探求心、執着心など)、潜在能力(音楽、絵画、ダンスなど)、美肌検査、アルコール代謝などだ。
医療・非医療の境界が曖昧な分野は、体質・易罹患性・生活指導・栄養指導、メタボ検査、生活習慣病・脂質異常症・高血圧リスク検査、骨粗鬆症検査、アルツハイマー・糖尿病・悪性腫瘍の遺伝子検査、遺伝病の遺伝子検査、薬剤応答性遺伝子の検査、感染症の遺伝子検査などだ。
では、DTC遺伝子検査が医療上の遺伝子検査と根本的に違う点は何だろうか?
第1に、DTC遺伝子検査の対象者は、発病していない健常者や一般消費者であること。第2に、毛髪、爪、頬の粘膜、唾液などの採取試料(検体)を郵送するだけで、病院へ行かなくても検査を受けられること。第3に、利用料金さえ払えば、インターネットを介して、誰にも知られずに利用できることなどだ。
期待と不安が複雑に入り交じるDTC遺伝子検査
2014年8月に、朝日新聞社が行ったDTC遺伝子検査の世論調査がある。「こんなに簡単にできるなんて驚き」「健康寿命を延ばしたい」などの声がある反面、遺伝子を調べる技術が進んでいくことに期待を感じる45%、不安を強く感じる42%。遺伝子検査を受けたいと答えた人のうち技術の進展に不安を感じる29%、検査を受けたくないと答えた人のうち技術の進展に期待を感じる27%となっている。
このような期待と不安が複雑に入り交じるDTC遺伝子検査だが、国はどのようなスタンスに立っているのか?
経済産業省の「平成25年度・遺伝子検査ビジネスに関する調査報告書」によれば、DTC遺伝子検査ビジネスの課題は、研究成果の集積が日進月歩で進んでいる発展途上の段階であり、消費者にとって遺伝子分野が難解であるために、情報格差が大きい。しかも、遺伝子検査や倫理問題などへの消費者の理解が十分ではないので、検査結果への誤解・過信が生じる恐れもある。しかし、科学的知見に基づいた事実を正確に伝えられれば、消費者の健康増進に寄与する可能性があるため、国・事業者・学術団体などが適正なビジネスに育てることが重要と指摘している。
DTC遺伝子検査は、次の4つの要因をクリアすることを求めている。
①分析的妥当性:適切な分析方法や精度管理が確立されているか。
②臨床的妥当性:検査結果の意味づけや解釈が十分されているか。
③臨床的有用性:検査結果による適切な予防・治療が行えるか。
④社会的有用性:倫理的・法的・社会的問題の影響がないか。
このような臨床的・社会的な背景を理解したうえで、次回からは、DTC遺伝子検査ビジネスの問題点を、検査の質が確保されているか? 科学的根拠はあるか? 情報提供の方法は適切か? 以上3つの観点から検証してみよう。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。
連載「遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?」バックナンバー