高齢者に多い混合型の認知症
血液から認知症リスクを予測するイメージ図
認知症は、その数が最も多く脳神経が変性しておきるアルツハイマー型認知症、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症がよく知られている。この2つだけで全体の約8割を占め、そのほかにレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがある。
「高齢者のアルツハイマー病患者の多くが動脈硬化による血管病変を合併しています。重要な点は、このような高齢者の混合型認知症は、動脈硬化による脳血流の低下が起きて初めて発症する例が少なくありません。つまり、動脈硬化を予防することにより高齢者の認知症の発症を抑えることができる可能性があるのです。現状ではアルツハイマー病の脳神経細胞の変性はいかんともしがたいものですが、全身性の代謝異常や生活習慣病に対するアプローチであれば予防も治療もできるのではないか。認知症対策の希望はここにあると考えています」(酒谷氏)
※参考 Vascular cognitive impairment Nature Reviews Disease Primers (2018)(https://www.nature.com/articles/nrdp20183)
将来の認知症リスクを4段階で評価
酒谷研究員は全身性疾患としての認知症は生活習慣病に起因する動脈硬化と栄養障害、貧血などの代謝異常が原因リスクになっているとの前提で、高齢者の年齢と血液データを入力項目とし、出力項目を一般的な問診による判定方式MMSEスコアを出力項目として、この関係をAI(深層学習)に学習させたうえで予測アルゴリズムを作成した。データとして年齢が最も重要度が高く、血液検査データでは栄養障害、貧血、肝腎機能障害、脂質代謝異常、糖尿病などに関する検査項目が高い重要度を示した。こうした数値からリスク診断として4段階の将来的なリスク評価としているという。
ランクA:認知機能障害のリスクは低いと考えられる。
ランクB:MCI(軽度認知症)のリスクがあると考えられる。
ランクC:早期認知症のリスクがあると考えられる。
ランクD:認知症のリスクがあると考えられる
「この診断法が万能というわけではありません。予測値がMMSEの実測値より良い数値として出てしまう場合があります。それは脳だけ障害されてカラダ全体の代謝が元気である場合です。例えば、クモ膜下出血後に認知障害を有する患者を「AICOG」では正常と判定した症例を経験しました。こうしたことから若年性のアルツハイマー病を見逃す可能性があるという限界もあります。しかし、大多数ではリスク予測が実測値と高い相関性が見られていますから、初期スクリーニングとしては有用なものだと考えます」とし、以下の5つのメリットがあるとする酒谷研究員。
➀健診データを用いるので、本検査のために新たに採血する必要がない。
②問診の必要がなく、大人数のスクリーニング検査を短時間に行える。
③被験者の協力を必要としない客観的データである。
④認知症関連物質を検出する特殊な検査法ではないので低価格に設定できる。
⑤認知症リスクとなっている全身性要因を特定できるので、各個人に適したオーダーメイド食事運動療法を指導できる。
認知症は食事療法や運動療法などの予防的介入により発症を遅らせたり、抑制できる可能性がある。しかし、医療現場で診断されるのは認知症が軽度から中等度のある程度進行してからというケースが少なくない。患者の負担が少なく、一般的な健診レベルの患者情報と血液データのみで認知症リスクを判定することができる「AICOG」が早期のスクリーニングとして機能する可能性は大きい。(文=編集部)
酒谷 薫(さかたに かおる)
東京大学大学院新領域創成科学研究科・人間環境学専攻、共同研究員
医療法人社団医光会 理事長
医学博士、工学博士、脳神経外科専門医
略歴
大阪医科大学医学部医学科卒業。同大学院博士課程修了(医学博士)米国ニューヨーク大学医学部脳神経外科付属研究所助教授、米国エール大学神経内科客員助教授を歴任。北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻博士課程修了(工学博士)、日本大学医学部脳神経外科光量子脳工学分野研究所教授、同大学工学部電気電子工学科教授を経て2019年、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授、2022年より現職。
※酒谷研究室で開発された「深層学習による認知障害リスクAI判定法」を自宅で受けることができます。現在、自宅でできる人間ドックシステム「おうちでドック」に同包されています。
「おうちでドック」
●男性用(がん、生活習慣病、認知症)
●女性用(がん、生活習慣病、認知症)
●男性女性セット(がん、生活習慣病、認知症)
●生活習慣病、認知症
●生活習慣病、認知症(血液のみ)