腰痛克服に不可欠な多面的・集学的アプローチ
高齢者の腰痛の研究成果として生理学的なエビデンスを見てみると次のような研究がある。
大阪市立大学大学院医学研究科整形外科学の中村博亮教授、星野雅俊講師、堀悠介大学院生らの研究グループは、大規模なデータを用いて世界で初めて体幹筋量の臨床的意義を明らかにし、体幹筋量が腰痛に関連するとする研究成果を「European Spine Journal」オンライン版/2019年2月6日に発表した(大阪市立大学プレスリリース2019年2月19日)。
研究グループは、背筋や腹筋を中心とした体幹筋(腹部、背中、腰の筋肉)に着目、千葉大学、北里大学と共同で大規模な多施設研究を実施し、各施設の脊椎外来通院患者2,551例のデータを多重非線形回帰分析によって解析した。
解析の結果、体幹筋量は腰痛による生活障害度(ODI)と有意な関連を示し、体幹筋量が減少するにつれてODIが悪化。体幹筋量が少ないほど、腰痛(VAS)、脊柱後弯(SVA)、健康関連QOL(EQ5D)も悪化した。
以上の結果から、体幹筋量は脊椎病態に重要な因子になり、体幹筋の機能の低下は腰痛の発症、腰椎機能の低下、脊柱バランスの不良、QOLの低下につながる事実が判明した。
日本の65歳以上の人口は3,515万人、総人口に占める高齢化率は27.7%の世界一。健康寿命の延伸、腰痛などの運動器疾患の克服は喫緊の課題だ。
こうしたエビデンスの積み上げが重要であることはいうまでもないが、冒頭の研究で示唆されているように、腰痛を単に生物学的損傷としてではなく、教育歴や所得などの格差による社会的疼痛症候群として捉えることの重要性が高まっている。
当然、医学的な治療のみではなく教育、啓蒙、心理学、予防医療的アプローチなど多面的・集学的アプローチが不可欠だ。腰痛の医療関係者には、自分の専門領域の知識や技術のみではなく、他職種や腰痛との関連性が考えられる専門家との連携にも目を向ける必要があるのではないか。(文=編集部)