肥大型心筋症患者でスリリング愛好者に関する調査
研究陣が解析対象として注目したのは、「肥大型心筋症」がありながらも好奇心旺盛なスリリング愛好者たちを調査した稀少データだった。肥大型心筋症は、心臓の壁が肥厚して心停止の主な原因ともなる。
オンライン調査対象である成人男女571名は、いずれも不規則な心拍や不整脈のリスクが高いスリル愛好者。そのうちの約4割が、除細動器を体内に植え込んでいた。
彼らが果敢に挑んだスリリング体験の種類も、実に多彩だ。バンジージャンプや大型ゴムボートで激流下りをするラフティング、パラグライディング、高所から懸垂降下するラペリング、おなじみのスカイダイビングなど、計8000件を超える内容が回答されていた。
しかしながら、調査対象者のおよそ3分の1において「めまい」「吐き気」「動悸」などの軽度な症状が報告されてはいたものの、諸々のスリリングな行為から1時間以内に「心停止」や「失神」などの重度な反応例は、わずか9件のみだった。
ジャコビー氏によれば、過去10年にわたって調べたジェットコースターの乗客死亡例に関する従来研究では「心臓問題」の死因例は極少、その大半が「外傷」によるものだった。
スリルを求める人々の健康問題とは?
ファーレイ氏も、数十年にわたって「スリルを求めて行動する人々」を対象に研究を重ねてきた専門家のひとり。実際にネパールでエベレスト登山者を追跡調査したり、ロシアや中国現地においては、熱気球に乗っての観察も行ってきた。それらの検証過程でも「健康上の問題」が浮上した例はほとんどなかったとファーレイ氏は語る。
「今回の研究では、重度の心臓病を有する患者においてさえ、スリルを求める行動が健康上のリスクに関係するとの優位を示すエビデンスは、ほとんど読み取れなかった。1回当たりのスリリングな行為による影響力は、極めて低いことが示されたのではないか」
ただし、ジャコビー氏はこう補足する。
「今回の研究結果をもって、人々がこういったスリリングな行為を気軽に捉えるようになるのは、我々の本意ではない」
なかでも、心臓病患者の場合、医師への事前相談を行うべきだと強調する。「自分にとって適切な行動とは何か。それを医師と話し合うきっかけとして生かしてもらえると幸甚だ」と、研究主導者の立場から助言した。
今年は誰と、どんなワクワク体験に臨みますか。
(文=編集部)