ロックミュージシャンに立ちはだかる「70歳の壁」
世界保健機関(WHO)の調査(2018年)によると、イギリス男性の平均寿命は79.7歳である。しかしロックミュージシャンにおいては「70歳の壁」があるのだろうか? 60代でがんによって亡くなるミュージシャンが、ここ数年、目立っている。
2015年には、アンディ・フレイザー(フリー)が62歳で、またクリス・スクワイア(イエス)が急性骨髄性白血病によって67歳で亡くなっている。16年には、デビッド・ボウイが肝がんで(享年69)、ジミー・ベイン(レインボー、ディオ)が肺がんで(享年68)、グレッグ・レイク(エマーソン・レイク&パーマー)は69歳で亡くなっている。さらに17年には、ジェフ・ニコルズ(ブラック・サバス)が肺がんで(享年68)、ジョン・ウェットン(キング・クリムゾン、U.K.エイジア等)が結腸がん(享年67)でそれぞれ亡くなっている。
一方で、チャーリー・ワッツ(ローリング・ストーンズ)は63歳だった2004年、喉頭がんであることが発表されたが、放射線治療を受け、77歳となった現在もメンバーの一員として活動を続行している。同バンドのロン・ウッドは、2017年、肺がんの手術を受けたものの、早期発見だったため命に別状はなく、やはりツアーに同行している。
ほかには、トニー・アイオミ(ブラック・サバス)は64歳だった2012年、悪性リンパ腫であることを公表、治療を続けながら活動を続行し、2016年にはがんが寛解したと公表している。
生死を分けた理由は個別に判断する必要があるので、ここでは評することはやめておく。傾向として言えるのは、60代でがんを発症するというケースが多いことだ。
エルヴィス・コステロはサイト上で訴える。「あなたが疑わしいときや時宜を得たときには医師の助言を求めてください。そしてできるように速やかに行動してください」と。
欧州ツアーの残り6公演を、主治医のアドバイスによって、速やかにキャンセルしたエルヴィス・コステロ自身の行為が、この言葉には投影されているに違いない。
自身の体と向き合い、無理をせず、決断したエルヴィス・コステロの行為とそのメッセージは、がんとどう向き合うべきなのかを教えてくれる。今後、エルヴィス・コステロは体調と相談しながら、無理のない範囲で末永く活躍してくれることだろう。
(文=西牟田靖)
※参考
http://naomikubota.tokyo/blog/end_of_rock_age
http://music.geocities.jp/behindblues19900714/deadrocker.html
西牟田靖(にしむた・やすし)
ノンフィクション作家。1970年大阪生まれ。神戸学院大学法学部卒。日本の領土問題や、戦後の植民地・戦地からの引揚問題など、硬派なテーマを取材執筆。著書に『僕の見た「大日本帝国」』『誰も国境を知らない』『本で床は抜けるのか』『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』など。