「アルコール」と「がん」の因果関係が判明(depositphotos.com)
英ケンブリッジ大学のケタン・パテル教授率いるチームは、「アルコールの摂取が、DNAを損傷し、がんの発症リスクを高める」とする英MRC分子生物学研究所で行なった研究成果を科学誌『ネイチャー』に発表した(「ニューズウイーク」2018年1月9日)。
アルコール(エタノール)を摂取すると、分解する過程でアセトアルデヒドが生成される。アセトアルデヒドがDNAを損傷する事実は、培養細胞を使った数々の研究で確認済みだが、その明確な機序は未解明だった。
パテル教授のチームは、マウスにエタノールを投与したところ、エタノールが造血幹細胞のDNA二重鎖を切断したため、細胞内のDNA配列が復元できなくなったという。
パテル教授は「造血幹細胞のDNAの損傷によって発生するがんもあるが、DNAの損傷がたまたま起こる場合もある。今回の研究は、アルコールがDNAの損傷リスクを高める可能性があるという明白な機序を示唆している」と解説している。
アセトアルデヒドを分解するALDH2が働かないアジア人は5億4000万人も
人間はアルコールに対して2つの自己防衛機能を備えている。
1つは、アルコールを分解する過程で生成される「アセトアルデヒドを分解」する機能。つまり、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が、有害なアセトアルデヒドを酢酸に分解し、細胞のエネルギー源に変える働きだ。
今回の研究では、ALDHの一種であるALDH2が欠如したマウスにエタノールを投与したところ、ALDH2が機能しているマウスと比べ、DNAの損傷は4倍に達した。このALDH2が十分に機能しない人や、欠陥がある人は、東南アジア人に特に多く、5億4000万人に達する。
2つめの防衛機能は「DNAの修復」だが、常に機能するわけでもなく、うまく機能しない人もいる点が大きな懸念だ。日本人の防衛機能は、決して盤石ではないのだ。
飲酒量にセーフティゾーンはない
パテル教授は「アルコール処理やDNA修復のシステムは完璧ではないので、自己防衛機能が働いている人でも、アルコールが原因でがんを発症するリスクがある」と注意を促している。
アルコールとの関係が特に強いがんは、口腔がん、咽頭がん、食道がん、乳がん、肝臓がん、大腸がんだ。そのリスクは、ワイン、ビール、蒸留酒などアルコールの種類とは無関係で、しかも安全な飲酒量はない。
英国政府のガイドラインが推奨する飲酒量は、1週間で14ユニット以内(1ユニットは純アルコール8gなので、14ユニットなら112g)だ。つまり、度数4%のビールなら7パイント(約3.3リットル)、度数12%のワインならワイングラス(125ml)で9杯と1/3杯に相当する。
ちなみに厚生労働省によると、「節度ある適度な飲酒量は、1日平均純アルコールで20g程度」だ。したがって、1週間(7日)の飲酒量に換算すれば、英国ガイドライン(112g)より多い120gになる。