肝がんは日本人の死因第5位(shutterstock.com)
酒の飲み過ぎは体の毒! 休肝日もとらずに1年365日、飲み続けたら病気になる!
酒好きや左党なら耳にタコができるほど聞かされ、誰もが察しはついている。だが、じゃあ体のどこが、どんなふうに悪くなったり、どんな病気に罹ってどんな症状が出たり、どの程度恐ろしいのかは、よく知らない。知ろうとしないのか、知るのが恐いのか……。
国民栄養調査によると、毎日習慣的に酒を飲む人は、30歳以上の男性の35.3%、女性の6.5%。酒の飲み過ぎは肝臓によくない! では、膵臓、胃腸、心臓、脳、神経、筋肉、骨、ホルモン系、生殖機能などはどうなのか? 酒が全身の臓器や組織に及ぼす甚大な障害やリスクを噛み砕いて話そう。
あなたもアルコール性肝障害の予備軍か?
まず、全国で250万人もの患者がいるアルコール性肝障害からだ。
アルコール性肝障害には、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変の4つがある。1日平均日本酒換算で約6合を10年以上も飲み続けると、約80%がアルコール性肝障害を起こすとされる。
常習的な大量飲酒が続くと、アルコール性脂肪肝になる。断酒せず飲酒を続けるとアルコール性肝炎、アルコール性肝線維症に進み、発熱や腹痛などさまざまな自覚症状が出る。そのまま飲酒を続けると、取り返しのつかない末期症状のアルコール性肝硬変に陥る。
アルコール性脂肪肝とは何か? 肝臓はアルコールを最優先に処理する。中性脂肪(トリグリセリド)の代謝が後回しになるために、食べ過ぎや飲み過ぎによって代謝されない中性脂肪が肝細胞内に蓄積する。それが「肝臓の肥満症」、アルコール性脂肪肝だ。30~70代に見られるが、男性も女性も40代以降の中高年に多発する。
自覚症状が少なく、腹部の超音波検査やCT検査で高脂血症と診断されたり、肝細胞に合まれる酵素(GOT、GPT、γ-GTP)の血液中の数値が上昇して、発見されることが少なくない。腹部鈍痛、食欲不振、吐き気などを伴う。重篤な動脈硬化などの生活習慣病を引き起こす恐れがあるが、禁酒すれば脂肪の代謝が改善され完治する。
脂肪肝の状態でさらに大量飲酒が続くと、アルコール性肝炎になる。肝細胞が炎症を起こし壊死するため、倦怠感、腹痛、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、発熱、黄疸、腹水などの激症が現れ、断酒が不能のアルコール依存症を伴う。重症なら肝硬変に進み、急性腎不全や肝腎症候群を併発したり、死亡する場合もあるので、ゆめゆめ侮れない。
大量飲酒によってアルコール性脂肪肝やアルコール性肝炎がさらに進めば、アルコール肝線維症になる。肝細胞の間質細胞や静脈に線維組織が増殖して線維化する肝障害で、日本人に多い。軽症なら禁酒すれば改善する見込みはあるが、深酒を続けると線維化がますます進み、アルコール性肝硬変に進行するリスクが高まる。
肝硬変はアルコール性肝障害の後戻りできない終着駅
肝臓の線維化が進んで肝機能が著しく低下し、肝臓全体が硬くなったアルコール性肝障害の終末状態、それがアルコール性肝硬変だ。
アルコール性肝硬変は、男性なら日本酒換算5合以上・約20年の飲酒で、女性なら3~5合以上・約10年の飲酒で発症に至るとされる。『新臨床内科学第8版』によれば、日本の肝硬変の患者40万人のうち、60%がC型肝硬変、15%がB型肝硬変、12%(4万8000人)がアルコール性肝硬変だ。
アルコール性肝硬変は、なぜ恐いのか?
初期は、食欲不振、疲労感、体重減少が続き、悪化すれば黄疸を伴う。だが、さらに重症化すると、肝臓左葉や脾臓の肥大、肝性脳症による意識障害や昏睡状態、食道静脈瘤の破裂による吐血、細菌感染による発熱、凝固因子欠乏による鼻血、歯茎の出血などが頻繁に見られる。末期になれば、下肢の浮腫や紫斑、腹水による腹部の膨満、胸水などの重篤な症状が生じるだけでなく、肝がんを合併するリスクが一気に増大する。
国立がん研究センター「がんの統計2014」によれば、日本人の肝がんの死亡率は第5位。男性は肺がん、胃がん、大腸がんにつぐ第4位、女性は大腸がん、肺がん、胃がん、膵がん、乳がんにつぐ第6位だ。男女とも減少傾向にあるが、年間およそ3万1000人が肝がんで死亡している事実を忘れてはいけない。
(文=編集部)
参考:「おもしろサイエンス お酒の科学」(日刊工業新聞)、国立がん研究センターHP、e-ヘルスネットHP(厚労省)、「からだのしくみ辞典」(日本実業出版社)、「アルコールと健康NEWS&REPORTS」(アルコール健康医学協会)、独立行政法人酒類総合研究所HP