無理して酒に強くなる必要は、まったくない
「酒は鍛えれば強くなる。オレだって昔は酒に弱かったが、鍛えて、ここまで飲めるようになったんだ」
そんな自慢をする先輩がよくいる。いや、まさに自分のことだと思った人もいるだろう。「酒に強くなることはいいことだ」と信じて疑っていなかったのかもしれないが、実はがんへの道を自ら進んでしまったのである。
そもそも酒の強さに関して、3つのタイプがある。いくら飲んでも酒に強くなれない下戸=酒に関する遺伝子AA型、鍛えなくても最初から酒に強い酒豪=酒に関する遺伝子GG型、そして最初は弱くて鍛えるうちに強くなる人=酒に関する遺伝子GA型。このタイプの違いは体質の違いであり、生来のものなので変わることはない。
酒を飲んだとき、体内に入ったアルコールはアルコール脱水素酵素によって分解されて、まずアセトアルデヒドに変わる。このアセトアルデヒドは、非常に毒性が強く、頭痛や吐き気、頻脈などをもたらす。
日本人に5%いる下戸、AA型は、このアセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素を持ってない。下戸にとってアルコールはまさに猛毒。鍛えても永遠に酒に弱いままであり、決して強くなることはない。
日本人の半数、最初から酒に強い酒豪、GG型は、アルデヒド脱水素酵素が豊富で、アセトアルデヒドをすばやく分解できる。そのため、酒を飲んでも、頭痛がしたり嘔吐することもなく、二日酔いになることもない。ただし、アルコールによる脳の麻痺はアルコール分解酵素とは関係がないので、大量に飲むことができる酒豪は、しばしばお酒で記憶をなくす。
日本人の残る半数弱が、アルデヒド脱水素酵素を持ってはいるが、多くはないGA型。アセトアルデヒドの分解に時間がかかり、気分が悪くなったり、二日酔いになったりする。
酒に強くなる仕組み
アルコール分解酵素を持っている人が鍛えると次第に酒に強くなる理由は、以前は脳や神経系がアルコールに慣れて酔わないように感じるためだろうと、考えられていた。だが実は、酒に強くなる仕組みがきちんとあったのだ。
酒を飲み始め最初の段階では、吸収されたアルコールの9割強が、肝臓でアルコール脱水素酵素の働きによりアセトアルデヒドに分解される。その後、アルデヒド脱水素酵素の働きで酸化され、酢酸に変わり、さらに酢酸が二酸化炭素と水に分解され、体外に排出される。
しかし、アルコール血中濃度が0.05%を超え、ほろ酔い気分になりはじめた頃から、アルコールの分解方法が変化し始める。
ミクロソーム-エタノール酸化系(MEOS系)による分解が増え、約半分がMEOS系で分解されるようになる。このMEOS系は、酒をたくさん飲んだり、よく飲むことによって、つまり「鍛える」ことで、働きが強まり、アルコールの分解が早くなっていく。
MEOS系の働きが強まると、酒には強くなるが、他のことにも強くなり、結果、困ることが増える。薬の分解が早くなるため、薬の効果が弱まり、効果時間も短くなる。麻酔も効きづらく、すぐに醒めてしまう。
そして、一番問題が大きいのが、がんになりやすくなることだ。
MEOS系によるアルコール分解の際には、体に悪影響を与えるフリーラジカルが発生する。MEOS系によるアルコール分解が盛んになると、フリーラジカルも多く発生して、肝臓にダメージを与える。
実は健康な人の体内でも、日々、がん組織は誕生しているが、MEOS系の酵素のひとつによって、初期段階で消去されている。がん組織の誕生が消去を上回るようになると、がんを発症する。酒に強くなり、酒を頻繁に飲んでいると、初期のがん組織を消去すべきMEOS系酵素がアルコール分解に使われてしまうため、がん組織がどんどん増えてしまう。
要するに「鍛えて酒に強くなった!」と喜んで酒を飲んでいる人の体内では、日々、がん組織が増えていっているのだ。
(文=編集部)