シリーズ「傑物たちの生と死の真実」第29回

高杉晋作は自己愛性パーソナリティ障害だった?肺結核が奪った27歳の生涯

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喀血から9ヶ月余り。肺結核と死闘の末、急死。享年27

 幕末から明治の御一新へ。大団円の舞台は急転する。1866年7月20日、14代将軍徳川家茂が死去。幕府軍の敗北が決まる。1867年1月、徳川慶喜が15代将軍となり、孝明天皇が崩御。明治天皇が即位。

 やがて病魔が高杉を断末魔の淵に追い詰める。同年7月頃、体調不良に陥り、激しく喀血。立ち居もままならず、下関市桜山の東行庵に臥床。愛妾・ウノの懸命の看病、主治医・杉義介の施療を受けるが、快癒の見込みは日々遠のく。胸の闘魂だけは熱く燃え盛っている。

 倒幕の激震の最中も、高杉の命運は末路を急ぐ手を緩めはしない。喀血から9ヶ月余り。1867年4月14日(5月17日)、肺結核と闘病の末、急死。享年27。墓所は東行庵(下関市)にある。

 高杉の死後、時は風雲急を告げ、一気呵成に倒幕へ舵を切る。1867年11月、大政奉還。1868年(明治元/慶応4)年1月、旧幕府軍が蜂起した鳥羽伏見の戦いが勃発。江戸幕府の瓦解から明治新政府の樹立へ。 松蔭と久坂の大志を引き継いだ高杉は、無念にも徳川265年の崩落、倒幕の瞬劇を「雷電の如き」慧眼に焼き付ける夢は、遂に叶わなかった。

 2016年4月、「故奇兵隊開闢 高杉晋作」と刻んだ墓誌碑を東行庵に建立。高杉の「人の道」を追悼している(西日本新聞2016年7月20日)。

現在も肺結核は「死の病」

 高杉の血の闘魂を永劫に葬った肺結核(労咳)。高杉の立ち位置と真逆ながら、同時代の劇風に晒されながらも病魔に立ち向かった孤高の青年剣士がいる。沖田総司だ。沖田総司は喀血し、わずか24歳(25歳、27歳の説も)の熱血を抱きつつ、肺結核に倒れている。

 高杉は1867年、沖田は1868年に肺結核で逝去しているが、その急死の14~15年後にブレークスルーが起きる。1882(明治15)年、ドイツの細菌学者ロベルト・コッホが結核菌( Mycobacterium tuberculosis )を発見するのだ。

 昔から「死病」と恐れられ、発症の原因はおろか、発病の機序も全く分からない暗黒時代。倦怠感、咳、微熱、寝汗、胸痛、血痰、喀血、呼吸困難を経て、やがて腸、腎臓、リンパ節、骨、脳などの肺外結核と死闘しなければならない。

 ストレプトマイシンやリファンピシンなどの抗生物質はない。エックス線検査や胸部CT検査も、BCG接種やインターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)も、ツベルクリン検査や血液検査もない。結核専用病棟もない。感染症法による治療費の公費補助もない。

 風通しの良い静かな場所で安静に過ごし、十分な栄養を取る養生だけが、病魔から逃れ、免疫力を温存し、生き永らえる唯一の手立てにすぎない。

 明治の御一新を迎えても、貧しく非衛生な庶民の生活環境は変わらない。遊郭の吉原や岡場所(非公認の私娼)に足繁く通う若者から遊女に、遊女から若者に感染を繰り返すご時世。肺結核は、若者たちの薄命を顧みる暇などない。

 21世紀の今も、肺結核は「死病」「国民病」である事実は、何ら変わらない。2014(平成26)年の日本人の患者数は1万9615人。欧米の先進諸国より多いという現実は重い(厚生労働省:平成28年結核登録者情報調査年報)。世界に目を向けても、毎年およそ180万人(HIV陽性者含む)が結核によって死亡する悲惨を直視しなければならない (WHO, Global Tubercurosis Roport,2016)。

 高杉や沖田の没後、およそ150年。肺結核は今なお根絶され克服されていない。
(文=佐藤博)

*参考文献
公益財団法人結核予防会結核研究所
公益財団法人結核予防会
日本呼吸器学会
松陰神社/吉田松陰歴史館

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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