高杉晋作は自己愛性パーソナリティ障害だった?(写真はWikipediaより)
没後150年を迎えた幕末の革命児・高杉晋作(1839~1867)。その人気度や好感度はどうだろう?
たとえば、22~34歳の働く女性412人を調査した「恋人にしたい幕末の志士ベスト5」を見ると、高杉は5位に滑り込んでいる(『マイナビウーマン』2015年11月のWebアンケート)。ちなみに1位は坂本龍馬で39票、2位は土方歳三で24票、3位は沖田総司で10票、4位は斎藤一で9票、そして5位が高杉晋作で7票だ。
別のランキングを見よう――。「女子大生、OL(1000人)が彼氏にしたい歴史上の人物ランキング」(「週刊文春」2012年5月9日)によれば、高杉は17位を堅持。ちなみに1位は坂本龍馬で216票、2位は織田信長で165票、3位は土方歳三で64票、4位は伊達政宗で37票、5位は聖徳太子で32票……そして17位が高杉晋作で8票だ。
人気度ランキングはさておき、高杉の来し方を知れば知るほど、高杉はナルシストだったと思えてくる。尊皇攘夷運動、倒幕へのあくなき陶酔。愛妾・ウノの溺愛。肺結核との死闘。生きながら不世出の革命児と慕われながら早逝した27歳の10万余日……。なぜ高杉はナルシストなのか? その「血の轍」を辿ろう――。
精神医学から迫る「ナルシスト」とは?
ナルシストは、自分だけに意識が向く「ナルシシズム(自己愛)」にこだわる。米国のメンタルヘルス臨床医ロジャー・ジル氏によると、「自分が大好きで自分の言葉に酔いしれる人」と、医学的に病的なナルシシズムである「自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder)」の人は、根本的に異なるという(参考:Life Hacker)。
自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己のアイデンティティを確立するために他者の強固な承認を強要する、他者への共感や他者と打ち解けることが極めて難しい、他者と激しく敵対するなど、パーソナリティ機能の欠陥がある。言い換えれば、現実を歪んで見る「認知の歪み」が大きく、それを指摘されるのに耐えられない。自分は偉大であることを否定されたり、自分の見解に反論されたりすると反感を爆発させる。
また、自己愛性パーソナリティ障害の人は、過去の人間関係に「破綻の痕跡」が認められる。他人の感情を傷つける、打ち解けた関係を作れない、相手との友好関係が崩壊するなどの挫折を重ねやすい。さらに、自身の利益のためになら手段を選ばず、他人を悪用しても省みず、自分の行動を執拗に正当化する、エゴイズムも強い。
その結果、自己愛性パーソナリティ障害の人は、健全な人間関係築けないので、自分の見解の矛盾や過失、言動の非を一切受容できない。「偏見」と「孤立」と「頑迷さ」――。それが「自己愛性パーソナリティ障害」の人の致命的な病態だ。
一方、「自分が大好きで自分の言葉に酔いしれる人」は、自分だけに意識が向くナルシシズム(自己愛)を持つナルシストだが、他人や社会から感謝されたい、賞賛されたい、尊重されたいという承認欲求が強い。
つまり、自分だけに向きがちな意識を他人や社会の共感を得ながら、創造的行動に変換し、自己実現に邁進する性向が強いので、自分本位のエゴイズムをコントロールしながら、何の見返りも求めずに他者のための利他的行動を起こせる、それが承認欲求が強いナルシストの利点だ。
尊皇攘夷の革命児・高杉晋作はナルシスト!?
このような視点に立ち、高杉の言動や生き様を振り返ればどうだろう?
松下村塾の恩師・吉田松陰の火のごとく熱い薫陶に触れるや痛く共感した高杉は、間髪を入れず奇兵隊を旗揚げし、同志らと尊皇攘夷運動へ雪崩れ込み、倒幕の先陣を切り拓いた。
アドレナリンの惹起が導火線になるや、脳内物質のドーパミンやセロトニンの暴発が革命への情熱と衝動と忍耐の起爆剤になり、たちまち発火点に達した。尊皇攘夷運動、そして倒幕へのあくなき陶酔だけが、ナルシスト高杉の基幹エナジーになった。
しかも、愛妻に恵まれながらも愛妾・ウノを溺愛し、葛藤しつつもナルシシズム(自己愛)を貫いた。ナルシスト高杉の承認と共感を渇望する猛炎のエナジーが燃えたぎっていた。
しかし、天は過酷な命運を高杉に課す。肺結核との死闘という試練を……。