ADHD患者の危機感知スキルがアプリで改善
ADHDを有する若いドライバーの交通事故リスクが高いのは、目の前の危機を感知するスキルが低いことと相関するといわれている。では、危険感知能力を改善する方法として、コンピュータ技術を用いた訓練は効果的だろうか?
そうした今まで例のなかった研究に取り組んだのは、School of Allied Health(オーストラリア)のC.R. Bruce氏らのグループだ。
コンピュータアプリケーションを用いたトレーニングで、ADHDをもつドライバーの危機感知能力が変化するか、さらに時間が経過しても持続されるかを調査し、『Accident; analysis and prevention』(オンライン版・2017年10月14日号)で報告した。
この研究では、ADHDと診断されたドライバー25例を無作為に2つのグループに分けた。「即時介入群」には、「ドライブスマート」というアプリを使って、危機感知のトレーニングを行った。
もう一方の「コントロール群」は、先に無関係のドキュメンタリービデオを視聴し、その後に「ドライブスマート」でトレーニングを実施した。そのうえで、対象者の危機感知能力をハザードパーセプションテスト(HPT・ドライバー視点の動画を見ながら危険を指摘する試験)を用いて測定。
その結果、トレーニング実施後のHPTスコアはグループ間で有意な差があり、「即時介入群」には大きな効果が見られた。さらに6週間のフォローアップの中でも、「即時介入群」には有意な維持効果が認められた。一方「コントロール群」内では有意な効果はみられなかったという。
この研究は、プロジェクトの実現可能性を探るために事前調査として行われたものだ。
論文の著者らは「ADHDドライバーに対するスマートトレーニングは危機感知能力を大幅に改善し、一定期間持続させる。トレーニングに対する多様なアプローチが、維持を容易にすることが示された。本研究によって今後、本格的な試験が実施できる」と述べている。
この取り組みは始まったばかりだが、ADHDの行動療法の一環として運転のトレーニングが確立され、その結果事故が減るのであれば社会的にも有用なことだ。ADHDが個性のひとつとして受け入れられ、患者が自分らしく生きていけるよう、日々のリスクを少しでも取り除いていくことが望まれる。
(文=編集部)