連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」第7回

「糖質制限+ビタミンC」は「がん」の新たな治療法となり得るか?

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厳しい糖質制限してビタミンCを点滴するとがん細胞が死滅する

 嫌気性解糖が大好きながん細胞を持つ人が、厳しい糖質制限をしてケトン体をメインエネルギーにする生活をするとどうなるでしょうか?

 がん細胞はブドウ糖をとりこむチャンスが減り、勢いよく増殖できなくなります。ブドウ糖を待ち焦がれていますが、食事からは入ってこないので、あまり増殖せずにじっと耐えています。この時に上述のPET検査のFDGのように、ブドウ糖に似た構造の「ビタミンC」を投与すると、大喜びで大量に取りこみます。

 これが今、がんの治療法として注目されているのです。

 ビタミンCは細胞内に入ると毒物である過酸化水素を産生してしまいます。正常細胞にはこの過程を止めるカタラーゼという酵素が存在しているので、ビタミンCを摂取しても細胞は大丈夫です。ところが、がん細胞にはカタラーゼが機能しないものが多くて、過酸化水素にやられて死んでしまいます。

 この理屈に従い、厳しい糖質制限を実践しながらビタミンC点滴を行うことで、がんを縮小させることに成功したという報告が2014年ごろからどんどん出てきました。糖質制限だけでなく、ケトン体値が上がる食事(ケトン食)と組み合わせると、同じ効果が得られることも報告されています。

 実は、「がん細胞がビタミンCに弱い」ことは以前から知られていたので、ビタミンCの大量点滴の試みは、十何年も前からなされていました。しかし、点滴にブドウ糖を入れていたので、効果はあまりありませんでした。

 そこに糖質制限が普及しメカニズムが理解されたことで、ビタミンC点滴の効果が劇的に改善しました。「厳しい糖質制限(ケトン食)+ビタミンC点滴」は今後のがん治療の一つの軸となる可能性をもっています。

糖質制限とビタミンCだけで「がん」は治せるのか?

 がんの治療法になりうる糖質制限(ケトン食)+ビタミンC点滴。これはすべてのがんに有効なのでしょうか?

 がんの腫瘍の塊の中には数億から数千億のがん細胞が含まれていて、これらのがん細胞は均一ではありません、さまざまな変異を持ちます。

 たとえば、がんの増殖を抑える分子標的薬は、最初は劇的に効いてがんが縮小したとしても、やがてこれらの薬が効かなくなり、再びがんが大きくなる症例は非常に多い。その分子標的薬が効かない遺伝子変異を持つがん細胞が増え始めるからです。

 「糖質制限+ビタミンC点滴」は素晴らしい可能性を秘めています。しかし、これだけを続けていると、同様に「ケトン体をエネルギーにできるがん細胞」や「ブドウ糖は取りこむけどビタミンCをあまり取りこまないがん細胞」が増え始める可能性がないとは言いきれません。そもそも「この方法が最初から通用しないがん」も存在しうるはずです。

 つまりこれ単独でがんに立ち向かうべきだと、私は思いません。「外科手術」「抗ガン剤」「放射線治療」などの現代医療は十分に利用しつつ、「厳しい糖質制限+ビタミンC点滴」も活用する、つまり、がんと戦う総力戦の一つの戦力として考える。これが現時点では最善の選択であると、私は考えています。

●参考図書 
西脇俊二『ガンが消える!』(ベストセラーズ)
福田一典『ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する!』(彩図社)
古川健司『ケトン食ががんを消す』(光文社新書)

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)

神戸市垂水区 名谷病院 内科勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

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