連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」第7回

「糖質制限+ビタミンC」は「がん」の新たな治療法となり得るか?

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がん治療に「糖質制限+ビタミンC」が効く(depositphotos.com)

 糖質制限をすると血糖値は常に「空腹時血糖」に近いところで安定します。その結果、細胞は「糖質」ではなくて「脂肪酸(ケトン体)」をエネルギーとして効率よく使うようになります。

 「ブドウ糖ではなくてケトン体こそが、我々の体の中の細胞がメインエネルギーとして利用していた物質である可能性が高い」

 以上のことが糖質制限の普及とともに明らかになってきつつあります。

 今回は、糖質制限の持つ知られざる力について説明します。それはがん治療に関して有効性があるのではないかという話です。

がん細胞が好むエネルギー源は「無酸素で使える糖質」

 がんは、我々の体の中にある細胞の遺伝子に何度か傷が入って、細胞が無限に増殖するようになった塊のことです。正常な細胞は、ルールに従って並ぶことで、正常な組織(臓器)を形作っています。でも、がんは、ルールを無視して、その場で好き勝手に無限に増殖し、正常な組織の構造を破壊しながらどんどん膨れ上がります。

 すごいスピードで増えるがん細胞、いったい何をエネルギーとして増殖するのでしょうか?

 我々の体の細胞の多くは糖質(ブドウ糖)と脂肪酸(ケトン体)の両方を使うことのできるハイブリッドエンジンであることを、これまでも説明してきました。どうして2つの燃料系が存在するのでしょうか?

 理由の一つは、非常事態に備えるためです。細胞が酸素を使ってゆっくりとエネルギーを産生する時には、ブドウ糖もケトン体もミトコンドリアのTCA回路を回して、たくさんのエネルギーを産生することができます。これは酸素を使うので「好気性代謝」と呼ばれます。コストパフォーマンスの良いエネルギー産生経路なのですが、時間がかかり、緊急事態にエネルギーがいっきに必要な時に間に合いません。

 ところが、サブエンジンの燃料であるブドウ糖は細胞質でもエネルギーを産生できます、この反応は酸素を必要としないので「嫌気性解糖」と呼ばれます。これは効率の悪いエネルギー産生方法なのですが、スピードが圧倒的に早くて、好気性代謝の1000倍のスピードでエネルギーを産生できます。たとえば外敵に襲われてダッシュで逃げる時や、けがをした時に細胞の増殖スピードを上げて組織を再生する時などに、こういう経路は便利なのです。

 がん細胞は急いで増殖する細胞なだけに、この嫌気性解糖を使ったハイスピードのエネルギー産生が大好きで、ブドウ糖のとりこみ量も増えています。逆に好気性代謝の装置であるミトコンドリアの機能は非常に低くなっていることも知られています(これらのことは1923年にワールブルグ効果として報告されています)。

 これはがん細胞を検出できるPET検査でもわかります。PET検査では、10時間以上絶食した後に、放射性同位元素でラベルしたFDGというブドウ糖に似た物質を注射してから、その体内での分布を調べます。ブドウ糖での嫌気性解糖が大好きながん細胞は、大喜びでFDGをどんどんとりこむので(正常な細胞の8倍のスピード)、強く光る細胞の塊として検出できるのです。

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)

大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

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