ベテランが名医とは限らない! 時代遅れの技能や知識が患者の死を招く?

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看護が優秀と公認された「マグネット・ホスピタル」は患者の死亡率が低い

 一方、今回の研究に注目する米ペンシルベニア大学健康アウトカム・政策研究センターのLinda Aiken氏は、病院によって医師の教育方針や資質レベルはまったく異なるが、看護が優秀と公認された「マグネット・ホスピタル」は、医師の資質レベルの差を差し引いても、患者の死亡率の低下や患者の満足度の向上など、患者の「良好なアウトカム」が認められると述べている。

 マグネット・ホスピタルとは、看護師や看護職員が緊密に連携し合い、参加支援型の管理方式、有能な看護管理職の起用、柔軟な勤務スケジュールの遵守、キャリアアップの機会拡大、院内教育の徹底などのクオリティの高い看護サービスを実践し、「医師、看護師、患者を磁石のように引き寄せる」魅力的な病院のことだ。

 このように医療の質は、病院の経営方針、医師や看護師の資質や経験、マグネット・ホスピタルの認定や評価などの複数要因の相乗効果によって高められることが分かるだろう(参考文献/『戦略的病院経営マネジメント―医療の質と経済性の両立をめざす』井上貴裕 /上村恒雄 清文社など)

「治療経験が豊富な大規模病院」ほど入院患者の生存率が高い

 さて、「医療の質」を決定するのは「医師の確定診断」だけではなく、「病院の規模」「ガバナンス(意思決定)」「患者安全コンピテンシー」であると示唆する象徴的な研究がある。

 この研究では、病院の治療環境と急性心筋梗塞を発症した高齢患者の生存率との関連性を探求するために、米国のメディケア(老齢者医療保障制度)を受けた65歳以上の9万8898人の患者を分析した(『NEJM』1999年5月27日)。

 研究によれば、「治療経験が豊富な大規模病院」に入院した急性心筋梗塞の患者は、心疾患の病歴、医師の侵襲的な治療手技や専門性の有無に関わらず、「患者数が少ない小規模病院」の入院患者よりも生存率が有意に高かった。つまり、患者数が増加すればするほど、死亡リスクが連続的に低下する事実が確かめられたことになる。

 また、病院が受けた認証プログラムの遵守率と入院患者27万6980人の入院後30日以内の死亡率の関連性を全国規模で分析したデンマークのフォローアップ研究も興味深い。

 研究によると、2010年から2012年の公立病院に対する「デンマーク医療の質プログラム(第一バージョン)」の認証を受けた11病院の入院患者7万6518人は、部分的な認定プログラムしか受けなかった20病院の入院患者20万462人よりも、入院後30日以内の死亡率が有意に低かった (FALSTIE-JENSEN ANNE METTE, LARSSON HEIDI, HOLLNAGEL ERIK, NØRGAARD METTE, SVENDSEN MARIE LOUISE OVERGAARD, JOHNSEN SØREN PAASKE Int J Qual Health Care 27: 165–174)。

 さらに、韓国のソウルにある3つの教育病院の成人病棟、集中治療室、手術室に勤務する看護師459人を対象に、「患者安全コンピテンシー(成果につながる望ましい行動特性)」と安全文化との関係を調べた研究にも注目しよう。

 研究によれば、看護師に自己管理調査票を配布し、チームワーク、コミュニケーション、安全に対するリスクマネジメント、人的・環境的要因、有害事象の認識、安全文化などの患者安全コンピテンシー・スコアを分析した。

 その結果、スコアの平均は5点、平均3.3点。396人(86.3%)は自らのコンピテンシーを平均より上と評価した。スコアのうち、安全に対するリスクマネジメントのスコアが最も高く、チームワークのスコアが最も低かった。患者安全コンピテンシーのスコアは、修士以上の高学位と長い臨床経験を持つ高年齢の看護師や看護師長が高かった。

 つまり、多くの看護師は、患者安全への高い緊急性を認識しているものの、チームワークに自信を欠く看護師が少なくないことから、看護師の安全コンピテンシーを強化するために、チームワークの強化が最優先の課題であることが分かった(What are hospital nurses’ strengths and weaknesses in patient safety competence? Findings from three Korean hospitals HWANG JEE-IN Int J Qual Health Care 27: 232–238)。

 いかがだろう? 医療の質や患者の死亡率は、医師や看護師の資質や経験だけではなく、病院の規模やガバナンス、病院が受ける認証プログラムの遵守率、患者への安全コンピテンシーの他、患者の安全文化の向上に欠かせないチームワークやコミュニケーションの強化、初期治療のクオリティ、鋭敏に対応するスタッフの永続性、バイタルサイン・モニタリングの高度化など、実に多面的・多角的な要因によって決まる事実が明らかになっている。

 冒頭の衝撃的なトッピックのように、医師の年齢だけが医療の質を担保するのではない事実を知ってほしい。(文=編集部)

※人名等に誤りがありましたので一部修正しています

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