シリーズ「病名だけが知っている脳科学の謎と不思議」第23回

小児慢性特定疾病の「ハンター症候群」とは? 新生児の約7700人に1人が発症!

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ハンター症候群は新生児の約7700人に1人が発症(depositphotos.com)

 人民蜂起によるロシア革命がソビエトの荒涼たる大地を揺るがした1917年――。その余波はイギリスの医療界にも及んだ。1873年生まれの内科医師チャールズ・A・ハンターは、「ムコ多糖代謝異常症(MPS II型)」の稀症例を内科学会に初報告。まさに革命的な臨床所見のプレゼンだった。

 「本疾患は男児のみに診られる進行性遺伝性疾患である。新生児は出生時には外見上の異変はまずない。しかし、1~2歳頃から騒音呼吸を初発後に気道感染や肝脾腫を経て、特徴的な顔貌、骨変化、角膜混濁、関節の可動性の低下、精神発達の遅滞などが観察される。重症化すれば成人前に死亡する」とハンターは病態を詳述。

 ライソゾーム病の一種である「ハンター症候群」が公式に認定された瞬間だった。

指定難病および小児慢性特定疾病に指定されている「ハンター症候群」とは?

 ハンター症候群の発表がいかに先見的だったかは、この1世紀にわたるライソゾーム病の数々の臨床研究の進展を顧みれば明白だ。ハンター症候群がどのような難疾患かを解明しよう。

 人間の生存に欠かせない必須栄養素やエネルギーを生成・分解・排出する新陳代謝の働き。それは、ライソゾーム(リソソーム)という細胞内小器官が行っている。ライソゾームに含まれる多種の加水分解酵素が不要になった脂質や糖質を分解・排出している。

 ライソゾーム病は、遺伝子異常によってライソゾームで機能する加水分解酵素の働きが低下・欠損するため、分解・排出されるべき不要物質が細胞内に溜まり、細胞が機能しなくなる難疾患だ。新生児の約7700人に1人が発症することから、日本では指定難病および小児慢性特定疾病に指定されている。

 ライソゾーム病は、蓄積する物質によって糖脂質代謝異常症(リピドーシスI型)、ムコ多糖代謝異常症(MPS II型)、糖蛋白代謝異常症III型、ムコリピドーシスIV型、糖原病V型、酸性リパーゼ欠損症VI型、ライソゾーム膜蛋白異常症VIIの7類型に分けられる。ライソゾーム病は効果的な根治療法がないので、遺伝カウンセリングと出生前診断が行われることが多い。

 これらのライソゾーム病の内、ムコ多糖代謝異常症(MPS II型)がハンター症候群と総称される。

 X染色体短腕(Xq28)に位置するイズロン酸-2-スルファターゼの遺伝子に異変が起きると、ムコ多糖分解酵素の欠損・低下を招くため、臓器にムコ多糖のグリコサミノグリカン(GAG)が細胞内のライソゾーム(リソソーム)に蓄積する。その結果、染色体劣性遺伝によるムコ多糖代謝異常症のハンター症候群につながる。

発症率は男児11~13万人に1人! 日本人の患者はおよそ120~140人!

 ハンター症候群はどのような症状を伴うのだろう?

 ガーゴイル顔(頭や顔が大きい)、前額の突出、低い鼻梁、広がった鼻翼、眼間開離(眼の間が広い)、幅広く厚い口唇、内眼角贅皮(眼の内側に眼瞼の皮膚が被さる)をはじめ、低身長、太く短い躯幹・四肢、多毛、蒙古斑、角膜混濁、視力障害、難聴、関節の可動域の制限から、水頭症、肝脾腫、心臓弁膜症、心不全、睡眠時無呼吸、知能障害、精神発達の遅滞まで特異的な病態を示す。

 発症率は男児11~13万人に1人。日本人はおよそ120~140人。軽症なら成人するが、重症なら発育障害、精神発達の遅滞、中枢神経変性を伴い、急速に進行するため、10〜15歳で死に至る。死因は閉塞性呼吸障害、心臓弁障害、心筋肥大、高血圧症、冠動脈狭小化による心不全などが多い。

 進行性疾患のため、早期診断、早期治療が急がれるが、ハンターの発見から半世紀以上の間は、骨髄移植か対症療法しか治療の道はなかった。

 転機は1973年に来た――。欠損酵素がイズロン酸-2-スルファターゼと判明し、1990年に酵素の遺伝子配列を解明。さらに、2006〜2007年に開発された酵素補充療法の有効性が証明され、週1回の静脈内点滴を投与する治療酵素エラプレース(イデュルスルファーゼ)が承認され、臨床導入。造血幹細胞移植や遺伝子治療も始まっている。

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