シリーズ「病名だけが知っている脳科学の謎と不思議」第19回

脳死者が蘇る? 「ラザロ徴候」は脊髄反射か生命反応か? 意見が分かれる「死」の解釈

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ラザロ徴候は「脊髄反射」か「生命反応」か?(shutterstock.com)

 死者を蘇らせることはできるだろうか?

 2016年6月、全国公開された映画『ラザロ・エフェクト』(デヴィッド・ゲルブ監督)は、生き返った人間が体験する恐怖を描くホラー作品だ。

 研究者フランク(マーク・デュプラス)と婚約者のゾーイ(オリヴィア・ワイルド)の研究者グループは「死者を蘇らせるラザロ血清」の研究に没頭していた矢先、ゾーイが感電死。フランクはラザロ血清をゾーイに投与し、ゾーイを蘇らせる。だが、怪奇な異変がゾーイを襲う。フランクたちは想像を絶する恐怖と向き合うが……。

 この映画で描かれた「ラザロ徴候」とは何だろう?

脳死患者に脊髄反射が起きる! 腕が硬直し持ち上がる! 背中が反り返る!

 1984年、脳神経学者のアラン・H・ロッパー教授(ハーバード・メディカルスクール神経科)は、脳神経科学誌『Neurology』に論文「脳死した患者が自発的に手や足を動かす病態の考察」を発表し、5例の特異な臨床例を報告する。

 ラザロ徴候は、脳死患者の呼吸器を外した時に、腕が硬直したまま持ち上がったり、背中が反り返って、手足を胸の前に合わせて祈るような動作を続ける。直後、手を元の位置に戻す。胴体、腕、足に鳥肌が立つのも特徴だ。血圧上昇、頻脈が生じるという報告もある。

 ロッパー教授によると、ラザロ徴候は低酸素による脊髄反射(脊椎自動反射)だ。だが、動作時間が他の脊髄反射に比べて長いため、延髄の関与を唱える見解がある。

 脊髄反射は、「熱いものを触れると瞬間的に手を離す」、あの反応だ。つまり、感覚神経が刺激を受けると、脊髄に送られたインパルスが運動神経に伝わって反射反応が起きる。刺激が脳を経由しないため、刺激を受けてから反射を生じるまでの時間が短い。

イエスはユダヤ人の友人ラザロを蘇らせた?

 なぜラザロ徴候と名づけられたのか?

 『新約聖書』を紐解けば、イエスの奇跡が数々と書かれている。ラザロ徴候は、記述された奇跡のうち、イエスが蘇らせたユダヤ人の友人ラザロの名にちなむ。

 『ルカによる福音書』や『ヨハネによる福音書』によると、ラザロが病気と聞いたイエスは、エルサレム郊外に暮らすラザロの家に駆け付ける。だがイエスは、ラザロが葬られて4日も経っていることを知る。ラザロの死を悲しみ涙を流すイエス。イエスは墓の前に立ち「ラザロ、出てきなさい」と言うと、布を纏ったラザロが墓から蘇った――。

 ラザロの蘇生を見た人々は、イエスの奇跡を信じたが、ユダヤ人の大祭司たちはイエスとラザロの殺害を計画する。

 キプロスの伝承では、ラザロはキプロスの初代主教になり、ラルナカの聖ラザロ教会の地下に永眠。ギリシャ正教会は、キリストによるラザロの蘇生を記録に留めている。南フランスの伝承では、ラザロは姉妹のマルタとマリアらと共に、マルセイユで布教に献身したとある。

 ラザロ蘇生の奇跡は、人類の原罪をキリストが贖罪し、甦生させた証とする解釈される。ドストエフスキーの小説『罪と罰』にも、金貸しの老婆を殺めたラスコールニコフが、ラザロの蘇りを記した件を娼婦ソーニャに読ませるシーンがある。

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