連載「病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」」第18回

ダニが媒介する「牛肉アレルギー」〜血液型は必ずA型かO型、日本では島根県で多発

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

進行の大腸がんや頭頚部がんの患者の中にも牛肉アレルギーが

 さらに興味深いことに、進行の大腸がんや頭頚部がんに対する分子標的治療薬であるセツキシマブ(商品名:アービタックス)に対するアレルギーを引き起こす人は、牛肉アレルギー患者であることもわかってきた。

 セツシキマブは、ヒト表皮増殖因子受容体(EGFR)に対するヒト化モノクローナル抗体である。遺伝子操作によってマウス由来の抗体分子の7割程度が、ヒト由来の分子構造に置き換えられている。

 セツキシマブのマウス由来のFab部分(抗体分子の抗原結合部位)には、α-gal糖鎖が含まれている。したがって、セツキシマブの点滴静注の前に、マダニ咬症の既往や牛肉アレルギーの有無、そして血液型の確認が求められる。

牛肉アレルギーは日本では島根県で多発

 わが国で牛肉アレルギーは、島根県で多発している。この地域には、フタトゲチマダニに媒介されるリケッチア症である「日本紅斑熱」が流行しており、実際、フタトゲチマダニの唾液中にα-galが証明された。

 つまり、ダニに咬まれたことのあるA型ないしO型の人は、日本でも牛肉アレルギーに要注意といえそうだ。もし大腸がんや頭頚部がんにかかったときは、医師にその旨を伝えた方がいいだろう。

 「日本紅斑熱」は、マダニの刺し口をみつけることが診断の決め手になる。そして、この皮疹を伴う熱病は西日本の特定の地域に分布する。

 出雲大社のほか、伊勢神宮、熊野古道、徳島県南部・宇和島といった四国の辺境、宮崎県・綾の杜から大隅半島、天草、上五島などだ。森が昔のままに保存された地域に、このマダニ媒介性疾患が多発する。

 「鎮守の森」に棲むシカやイノシシを吸血するチマダニ(の幼生)が、この日本固有のリケッチア症を媒介する。こうした「神さまが住む地域」の住民に牛肉アレルギーが多いかどうか、さらなる調査が必要だろう。

連載「病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」」バックナンバー

堤寛(つつみ・ゆたか)

2017年4月より、はるひ呼吸器病院(愛知県)病理診断科の病理部長。1976年、慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

堤寛の記事一覧

堤寛
がんになってもあきらめない妊活・卵巣凍結 費用は卵巣摘出に約60万円、保管は年間10万円
インタビュー「がんでも妊娠をあきらめない・卵巣凍結」後編・京野廣一医師

がん患者への抗がん剤による化学療法は妊孕性(妊娠のしやすさ)を低下させる。がんにより妊娠が難しくなる患者を支援するため、2016年4月に「医療法人社団レディースクリニック京野」が、治療前に卵巣を凍結して保存しておく「HOPE(日本卵巣組織凍結保存センター)」を設立すると発表した――。医療法人社団レディースクリニック京野理事長の京野廣一医師に卵巣凍結の仕組みについて訊いた。
前編『「がん」になっても妊娠・出産をあきらめたくない女性のための「卵巣凍結」とは?』

フリージャーナリスト。1949年、東京都生れ。法…

郡司和夫

小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認…

横山隆

近畿大学理工学部生命科学科ゲノム情報神経学准教授…

西郷和真