進行の大腸がんや頭頚部がんの患者の中にも牛肉アレルギーが
さらに興味深いことに、進行の大腸がんや頭頚部がんに対する分子標的治療薬であるセツキシマブ(商品名:アービタックス)に対するアレルギーを引き起こす人は、牛肉アレルギー患者であることもわかってきた。
セツシキマブは、ヒト表皮増殖因子受容体(EGFR)に対するヒト化モノクローナル抗体である。遺伝子操作によってマウス由来の抗体分子の7割程度が、ヒト由来の分子構造に置き換えられている。
セツキシマブのマウス由来のFab部分(抗体分子の抗原結合部位)には、α-gal糖鎖が含まれている。したがって、セツキシマブの点滴静注の前に、マダニ咬症の既往や牛肉アレルギーの有無、そして血液型の確認が求められる。
牛肉アレルギーは日本では島根県で多発
わが国で牛肉アレルギーは、島根県で多発している。この地域には、フタトゲチマダニに媒介されるリケッチア症である「日本紅斑熱」が流行しており、実際、フタトゲチマダニの唾液中にα-galが証明された。
つまり、ダニに咬まれたことのあるA型ないしO型の人は、日本でも牛肉アレルギーに要注意といえそうだ。もし大腸がんや頭頚部がんにかかったときは、医師にその旨を伝えた方がいいだろう。
「日本紅斑熱」は、マダニの刺し口をみつけることが診断の決め手になる。そして、この皮疹を伴う熱病は西日本の特定の地域に分布する。
出雲大社のほか、伊勢神宮、熊野古道、徳島県南部・宇和島といった四国の辺境、宮崎県・綾の杜から大隅半島、天草、上五島などだ。森が昔のままに保存された地域に、このマダニ媒介性疾患が多発する。
「鎮守の森」に棲むシカやイノシシを吸血するチマダニ(の幼生)が、この日本固有のリケッチア症を媒介する。こうした「神さまが住む地域」の住民に牛肉アレルギーが多いかどうか、さらなる調査が必要だろう。