発達障害の原因が特定された!
では、発達障害の原因は何だろう? 大阪大学の山下俊英教授(分子神経科学)の研究チームは、「神経発達障害群の染色体重複による発症の機序を解明 注意欠如・多動症などの神経発達障害の新治療法に光」という研究成果(マウス実験)を英科学誌『Molecular Psychiatry』に発表した(日経新聞2016年7月5日)。
発表によれば、発達障害が染色体の一部分(16番染色体の16p13.11領域)の重複によって生じるメカニズムが遂に解明された。要約すればこうなる。
①16番染色体の16p13.11領域の中にマイクロRNA484が存在する。
②16p13.11が重複すると、マイクロRNA484が増加する。
③マイクロRNA484が増加すると、脳機能の発達異常が起きる。
つまり、発達障害の原因分子であるマイクロRNA484が増加すると、脳の発達に重要な役割を果すプロカドヘリン19タンパクの機能が弱まり、そのバランスが崩れるため、異常な神経回路が構築され、発達障害を発症するのだ。
今回の研究成果は1つの原因分子とメカニズムの発見にすぎない。だが、発達障害に関わる分子がどのように働き、脳の機能異常が起きるのかが少しずつ明らかになっているので、基礎研究やiPS細胞を活用した薬剤研究を重ねれば、治療法の開発につながる可能性が高い(http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/molneu/)。
ちなみに発達障害は、「広汎性発達障害(PDD)」「注意欠陥・多動性障害 (ADHD)」「学習障害 (LD)」に大別される。以下に、その概要を説明する。
コミュニケーションが苦手で特定の分野に強い関心を示す「広汎性発達障害」
広汎性発達障害 (PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害がある発達障害だ。アスペルガー症候群、自閉症、レット障害、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害の5つの障害がある。
PDDは、社会性・対人関係の障害、コミュニケーションや言葉の発達の遅れ、行動と興味の偏りが特徴だ。コミュニケーションが苦手、特定の分野だけに強い関心を示す、周囲にうまく溶け込めず孤立する、触られるのを異常に嫌がる、音に過剰反応する、視覚・聴覚・味覚・触覚に対して苦痛や不快感を感じる感覚過敏を伴うことも少なくない。
アメリカ精神医学会『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)によれば、レット障害を除外した自閉症、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害の4つが自閉症スペクトラム障害(ASD)と総称される。
従業員5人以上の事業所に雇用されている障害者は、身体障害者約43万3000人、知的障害者約15万人、精神障害者約4万8000人。PDDは、知的障害や精神障害を抱える人にも見られるため、これらのデータに含まれる(厚労省「平成25年度障害者雇用実態調査」)。
大人になってからPDDと診断される人は、子どもの頃から自分と他人の違いに違和感をもつため、急激な変化や変更に対応できない、こだわりが強く納期に間に合わない、社交辞令や暗黙の了解が分からない、複数の指示をこなせないなどに悩むことが多い。