未病ケアは女性なら妊娠・出産の前から
中国の古い文献に「病気を治すのではなくて『未病』を治す医者が一番いい」という言葉がある。登坂氏も「病気になる前に治してあげるのがわたしは医者の本来の役割だと思っています。でも残念ながら今の日本ではこの分野に保険などのお金がつきにくい。日頃から体のケアをきちんとし、国民が病気を未然に防ぐ努力をすることで国が負担する医療費の削減にも繋がる」とする。
では「未病」対策はいつからはじめればいいのか? 「何歳から始めても遅くないですが、一番いいのは女性なら妊娠・出産の前からです。腸内フローラの問題とか、母親の体調は子供にそのまま行ってしまうので。適齢期から始めた方がいいのは間違いないです」と登坂氏。
しかし、その年齢の人たちは残念ながら、まだ医療機関のハードルも高くてなかなか行かない。だから若い人が気軽に利用し自分の栄養状態を知ることができる「栄養ケアスタンド」の構想が生まれたという。
栄養士がいくつかの検査とアドバイスで終わる場合もあるが、自覚症状があって医師の専門的な話を聞きたい場合はクリニックを受診する。
クリニックでは、医師が各種栄養バランスのチェック、免疫力低下やがんの早期発見を目指す血液検査など50項目以上の検査結果をもとに、総合的に診断する「ホリスティキュア外来」と栄養士による栄養指導がある。未病対策のために詳細な検査を行なう「ホリスティキュア人間ドックコース」も用意している。医師は米国発の最新栄養学「ホリスティック栄養学」を学び、コロラド州の栄養コンサルタント資格を持つ登坂氏と尾都野信子院長だ。
オンラインでの問診に十分に回答できる能力が有り、病状がある程度安定しているなどの条件を満たしている場合に限られるが、オンライン通院も可能。もちろん検査が必要な場合は来院する必要があるが、結果説明・栄養相談/指導などは遠隔で対応可能となっている。
未病クリニックと栄養ケアスタンドを全国に
厚労省が2年おきに国民健康調査をやっているが、日本人は微量栄養素の中で亜鉛、カルシウム、ビタミンなどの栄養素が深刻に足りない
「だから不定愁訴の人が多いし、キレやすい人が多い。精神疾患も増えています。精神の問題は栄養の問題と密接に関係があります。毎日の食生活を少しずつできるところから変えていくだけでも、将来産まれる子供の才能さえを変えることもできる。栄養バランスがいい人は集中力も高いです」と述べ、女性だけでなく、男性についても偏った食事のまま年齢を重ねることは危険だと説明する。
「未病」対策の分野において栄養士が果たせる役割が大きい。しかし、ほとんどの栄養士が日本では都合のいい“調理師”として使われ、起業もしにくい。そんな栄養士を日本でうまく活用できていない背景には「日本人はソフトにお金を払わない文化があるから」と日本人の価値観にも疑問を持つ。「やる気のある栄養士の知識やノウハウの蓄積はものすごい。そのソフトをもとにこの『栄養ケアスタンド』で独立し、社会に貢献できるようになればいい」と登坂氏。
今後は同じ考えを持つ医療機関との提携を増やしていきたいと語る。「北海道、東京、千葉、九州に今ひとつずつ提携機関がありますが、それでは足りない。最近では広尾レディースの宗田聡院長や慶応大学の片岡史夫医師などとの連携も可能になりました。食生活が大切だと考えるドクターと協力して施設を増やし、同時に栄養士さんの開業の可能性を広げたい」
「栄養学だけしか知らない人は医学を批判し、医学しか知らない人は栄養学を批判する傾向があります。でも実際は両方を知ることが大事だと思っています。それを繋ぐのがわたしのテーマ。サプリの選定についても医学と栄養学の両方を知っている人に選んでもらうのが一番安全。医療者がもっと栄養学を知らなければいけない」と話す。
(取材・文=名鹿祥史)
※ホリスティキュアメディカルクリニック(http://www.holisticure-clinic.jp/)