腸間膜のヒミツはどこに隠れているのか?
外科医、法医学者、解剖学者ならいざしらず、人体の解剖に関わった読者はほとんどないだろう。腸間膜のエポックを耳にして、ふと思い出したことがある。
地球から54億kmの宇宙空間にある、月の3分の2ほどの大きさの冥王星が辿った運命だ。1930年に発見された冥王星は、「太陽系の9番目の惑星!」とやんやの喝采を浴びたものの、2006年に至って、冥王星に似た星が多数発見されたことから、準惑星という地位に甘んじた。太陽系は「水・金・地・火・木・土・海王星」となったのだ。
この不遇を被った冥王星と打って変わって、幸運を射止めたのが腸間膜ではないだろうか? 人体の臓器ネットワークの正式メンバーに迎え入れられたのだから、腸間膜になぜか親近感が湧いて来るのも宜(むべ)なるかなだ。
親近感はともかくとしても、その病理的なポテンシャリティを推理してみるのも一興だ。先述のように、腸間膜は、血管、リンパ管、神経と消化管をつなぐ幹線路となり、内臓脂肪が蓄積する場所だ。このような要所を占める臓器が決定的なヒミツを握っていないはずがないではないか?
あくまでも推論だが、血管系、消化器系、ホルモン系、免疫系、脳神経系との深い相関関係は容易に想像がつくだろう。さらには、内臓脂肪が蓄積する場所ならば、筋トレ、呼吸法、運動の不文律を裏づけるメタボのエビデンスが確かめられる可能性は大いに望める。
なぜなら、内臓脂肪は皮下脂肪よりも代謝活性が高いため、食事を節制し、運動を積極的にすれば、減らしやすいからだ。「ぽっこりお腹にサヨナラ!」の決定打を放つのは、腸間膜の果す代謝活性力かもしれない。
科学は、仮説・観察・論証の積み重ねだ。臓器がその場所にあり、どのような形態をとり、どのように働いているかは、生理的な根拠がある。近い将来、腸間膜の研究が想像を遥かに越えたブレークスルーを起し、人類に幸運なパラダイムシフトをもたらすかもしれない。2017年以降のメディカルサイエンスのフロントランナー、腸間膜を追尾していよう。
(文=編集部)