痛み止めの薬と胃腸薬を同時に処方することはよくある
●医師が間違えたのか? 多く薬を出して儲けてやろうという悪巧みか?
腰が痛い、膝が痛い、頭が痛い......。ヒトの日常に痛みはつきもの。時として耐え難い痛みで病院に駆け込む例も少なくないはず。そこで医師から「痛み止めのお薬を出しておきますね」と言われて、実際、処方された薬剤を見ると、確かに痛み止めの薬はあるものの、それと一緒に、なぜか胃腸薬が薬袋に入っていたという経験はありませんか?
胃痛でもないのに医師が間違えたのか、それとも、こちらが医学的知識のないことを幸いに少しでも多く薬を出して儲けてやろうという医師の悪巧みか――。
この邪推は、どちらも不正解。痛み止めの薬と胃腸薬を同時に処方することは、実はよくあることなのだ。
正確にいうと、痛み止めの薬は非ステロイド系抗炎症薬と呼ばれる鎮痛薬。これは英語で「Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs」といい、日本の医療現場ではその頭文字をとって「NSAIDs」と呼ばれる。この薬は、シクロオキシゲナーゼという体内にある酵素の働きを抑えることで、この酵素が関与して作られるプロスタグランジンという生理活性物質の合成を止める作用がある。このプロスタグランジンこそが、痛みのもとになる炎症を起こす原因物質だ。
シクロオキシゲナーゼには、この痛みの原因物質を合成する働きの一方で、胃の粘膜を保護するという優れた作用もある。ところがNSAIDsは、シクロオキシゲナーゼの胃粘膜の保護作用も失わせてしまい、胃の粘膜が荒れて胃潰瘍を発生する可能性が高くなる。これを防ぐために、NSAIDsのような鎮痛薬と同時に胃腸薬が処方されるのだ。
●NSAIDs服用者の10人に1人が胃潰瘍
多少古いデータになるが、日本リウマチ財団が1991年に発表した調査では、NSAIDsを3カ月以上服用している関節リウマチ患者1,008人のうち、15.5%に胃潰瘍が認められたという結果が出ている。実に10人に1人以上という計算だ。さらにアメリカではNSAIDs服用者のうち年間10万人以上がNSAIDs服用を原因とする消化器症状で入院し、うち1万6,500人が死亡しているという驚くべき報告もある。たかが潰瘍と侮ってはいられないのだ。
最近ではこの副作用が防ぐ新たな鎮痛薬も登場しているが、医師にとっては使い慣れた旧来のNSAIDsを使う人も多く、一般人からすると摩訶不思議な胃腸薬との併用という現実に至っている。
もっともこれはNSAIDsが悪い薬というわけではない。ある程度、注意が必要な薬だということである。医師や薬剤師は副作用をよく知っているため、処方時に詳細な説明が行われる場合は多い。ただ、問題はNSAIDsが街中のドラッグストアでも買える。ドラッグストアで売られている鎮痛薬、ロキソプロフェンなどが代表例だ。もちろんこうしたドラッグストアでも対面で副作用などを説明してから販売するのが前提だが、時として医師や薬剤師がそれほど説明しなかった、あるいは説明されたのに当の患者が覚えていないということもある。
いずれにせよ、こうした情報は少しでも知っておくことが肝要。そして胃腸が弱い人などはこうした鎮痛薬を安易に飲まないように心がけ、そうでない人も痛みがあるからと言って空腹時などにNSAIDsを飲まず、軽食を取って飲むということも注意したい。ましてや胃が痛むときに鎮痛薬だからなどという勘違いで、この手の薬を飲むなど最悪だ。
(文=編集部)