日本ではこの数年、<炭水化物を制限した食事>が有効なダイエット法だとして、広く認知されてきた。
アメリカの糖尿病学会では2013年、糖尿病の食事療法を見直し、従来までの「カロリー制限」から「糖質制限」に舵を切り直した。糖尿病患者には炭水化物の制限が勧められているのだ。
さらに『PLOS ONE』(2016年10月31日オンライン版)に掲載された小規模な研究報告によれば、低炭水化物は健康的な代謝の変化をもたらし、ダイエットの有効性を高めるには、運動を行うタイミングも影響を及ぼすという。
研究では、低炭水化物食のグループが、食後のインスリン抵抗性およびインスリン値が改善したのに対し、高炭水化物食の場合には、これらの値に低減は認められなかった。
インスリンは、身体に食物の炭水化物を細胞のエネルギーとして利用させる働きをもつホルモンだ。インスリンが、肝臓や筋肉、脂肪細胞などで正常に働かなくなった状態を「インスリン抵抗性」という。
インスリン抵抗性があると、食事で高くなった血糖値を感知して、すい臓からインスリンが分泌されても、筋肉や肝臓が血液中のブドウ糖を取り込まないため、血糖値が下がらない。そのため、インスリン抵抗性になると糖尿病前症や2型糖尿病のリスクが高まる。
今回の研究は、糖尿病や糖尿病前症の徴候がない50~65歳の健康な閉経後女性32人を対象とし、<低炭水化物食>または<高炭水化物食>のどちらかを摂取するグループに分け、さらに食事前の運動の有無に分け、全4グループで比較した。
対象者には食事を、試験開始の前夜、研究当日の朝と夕方(午後5時)にとってもらった。食事はいずれも摂取カロリーを約800kcalに設定した。
低炭水化物食では、栄養素のエネルギー比率を炭水化物30%・タンパク質25%・脂質45%(ただしオリーブ油など)にし、マカロニチーズやソーセージ、ハム、サラダ、果物、ヴェジーバーガー(肉を含まないパティを用いたハンバーガー)、スープなどのメニューで提供した。
一方で、高炭水化物食は、比率を炭水化物60%・タンパク質15%・脂質25%にし、米国の食事ガイドラインに沿ったメニュー(穀物パンに卵サラダをのせたもの、ベーコン、ハムチーズ・サンドイッチ、バナナ、コールスロー、オレンジジュース、グラハムクラッカーなど)を提供した。
また、運動を行うグループは、中等度の強さの運動を2時間行い、運動は食事を始める1時間前に終わるようにした。
食前の運動は夜間の血圧値を上昇させる?
一般的には、運動はインスリン抵抗性と血糖値を下げるものと考えられている。だが、今回の研究で<食前に運動すると夜間の血圧値が上昇する>ことも判明した。
これについて、研究指導著者である米ミシガン大学運動生理学部教授のKatarinaBorer氏はこう説明する。
「運動はエネルギーを必要とし、肝臓から糖を放出するホルモンを分泌させる。体中のほとんどの組織がインスリン抵抗性となり、脳や筋肉が過剰な糖を利用できるように働く」
つまり、食後に運動すると、肝臓からではなく食事からエネルギーが供給されるため、食事中の糖は使い切られるようになるという。そのため、同氏は食後40分以内に運動を行うよう勧めている。
ただし、この研究は期間が非常に短く、対象も健康な女性に限っており、低炭水化物食と食前の運動が糖尿病前症や2型糖尿病の発症に及ぼす影響については、同氏はコメントしていない。
他の専門家は、食事療法では栄養バランスと摂取量の管理が重要であり、ナッツバター、卵、脂肪分の少ない肉などの良質なタンパク質をとるよう奨励している。
また、食事やおやつにタンパク質を加えると血糖値が安定し、満腹感が継続するという。さらに、運動は空腹時に行ってもよく、運動に最適な時間帯は人それぞれだとしている。