連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第3回

救命率が全国平均の約3倍! なぜ福岡市の救命可能な心肺停止の救命率は高いのか?

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救命可能な心肺停止への対応法は除細動(電気ショック)とCPR (心肺蘇生)

 心室細動や無脈性心室頻拍を元の正常な状態に戻すためには除細動器やAED(自動体外除細動器)による除細動(電気ショック)を行う以外に方法はない。

 心肺停止に陥った後、除細動までの時間が早ければ早いほど救命率は高い。質の高いCPR(質の高い胸骨圧迫と人工呼吸)をしなければ、除細動までの時間が1分遅れる毎に7~10%ずつ救命率は低下し、10数分間放置されればほとんど救命されない。

 心肺停止後3分で除細動が行われれば救命率は70%だが、5分で除細動が行われれば救命率は50%となる。しかし、心肺停止に陥った患者に質の高いCPRを行えば、救命率が3~4%の低下にとどまり、平均救命率も何もしなかった場合に比べて2~3倍高くなる。

 このように、迅速なAEDと質の高いCPRを一般市民のレベルで行うことができれば救命率は格段上がることになる。可能なら、AEDによる除細動は、救急車が来る前に一般市民の手で行われることが理想的である。

 ちなみに、世界には心肺停止患者の救命率が70%に及ぶところがある。それはアメリカのある国際空港だ。理屈は簡単で、国際空港であるため人がたくさんいて、急に倒れた人がいると誰かがすぐに見つけてくれる。その後すぐに誰かがAEDを取りに行く。空港のどこで人が倒れても平均3分でAEDで行えるように設置されているのだ。そのため救命率は70%ということになる。

病院前から病院までの搬送連携システム

 ここまでは心肺停止に陥った患者への一般市民レベルでの対応について説明してきたが、救命率を上げるためには、これだけでは不十分である。心肺停止に陥った患者は、一般市民から救急隊に引き継がれ、かつ一刻も早く救急病院に搬入され病院内治療が行われなくてはならない。この連携システムなくして救命率の上昇もない。

 このシステム構築で重要な指標は、一つが「119番通報から救急車による現場到着までの時間」、もう一つが「現場から搬送病院までの時間」である。これらの時間をどれだけ短縮できるかが地域の救急医療能力の指標となる。

 福岡市の全ての心肺停止(救命可能な場合も不可能な場合も含めて)に対する救命率は約2.5%となっている。全国平均の1~2%を上回る。また、救命可能な心肺停止に対する福岡市の救命率は20数%。全国平均の7~8%に比べると、なんと全国平均の約3倍にもなる。

 この数字を根拠に福岡市長も福岡消防も「安心して暮らせる街、福岡、日本一住みよい街、福岡」をアピールしている。市民、消防、医療機関が一丸となって連携を図り、心肺停止患者の救命率向上に努力している結果、救命可能な心肺停止患者の救命率が全国平均の約3倍にもなっているのである。

なぜ福岡市の心肺停止患者の救命率は高いのか?

 なぜ福岡市の心肺停止患者の救命率が高いのか? 一言でいえば「福岡市の地域救急医療能力が高い」からだ。具体的な理由は以下のことが挙げられる。

1:成人人口の約40%が約3時間以上の救命講習(質の高いCPRと迅速な除細動の実技練習)を受けている。

2:救急車の現地到着時間は全国平均より2分早い。福岡市は人口密度が高い、つまり、狭いところに多くの人が住んでいることになるが、最寄りの消防署からの現場到着により上記の結果が出ていると考えられる。

3:救急車からの搬送病院決定が3回の連絡でほぼ99%決まり、その内大部分は1回の連絡で決まる。病院側の救急車断りによる患者たらいまわしがほとんどない。これは、関東や関西の病院決定までの回数に比べると跳びぬけて少ない。

4:福岡市内は総合病院的な救急病院が地理的にうまく散在し(分散し)、現場から比較的短時間で病院搬送が可能である。

5:救急告示病院で構成される救急病院協会に所属する病院が福岡市の救急車の約90%弱を引き受けている。ちなみみ、救急病院協会が存在すのは福岡市のみである。

 ここまで述べてきた福岡市の現状を考察することで地域の救急医療能力向上を行うためのヒントが存在するものと思われる。


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河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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