いたずらに医療不信だけを煽る週刊誌が新たな健康被害を生み出している

この記事のキーワード : 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
new_medicalIC.jpg

医師と患者の理想の関係とは(shutterstock.com)

 私は川崎市で働く内科医です。緩和ケア内科と腫瘍内科を担当しています。先日、私の外来にこんな患者さんがいらっしゃいました。

「先生、ジャヌビアは本当に飲み続けていて良いのでしょうか?」
この方は60代の女性で糖尿病治療中に、急激にコントロールが悪くなったことで、膵臓癌が見つかり、現在私の外来で化学療法を行っています。幸い抗がん剤の副作用も少なく、治療経過は順調です。急激に悪くなった糖尿病も順調に改善してきていた矢先の相談でした。

 どうして突然そんな疑問が出てきたのでしょうか?詳しく話を聞いてみると、新聞や電車にある週刊誌の広告で「飲み続けてはいけない薬」にジャヌビアがいつも取り上げられていたそうです。それも1回だけでなく、何回も出てくるので不安になった、と。その記事では、ジャヌビアは「肝障害やアナフィラキシーショックを起こす」と書いてあるとのことでした。

大きな問題は、薬のリスクの面しか伝えていないこと

 これは週刊現代2016年6月11日号に掲載された「ダマされるな!医者に出されても飲み続けてはいけない薬」1)という記事に端を発しています。その後、記事が反響だったようで、先週発売の7月16日号まで6週連続で医療批判を意図した記事が特集されています。記事の中では医師や薬剤師などのインタビューを交えながら、様々な薬の危険な副作用が紹介されています。

 たしかにジャヌビアには肝障害やアナフィラキシーといった副作用がありますが、それは添付文書にもしっかり記載されております。また、その副作用の発症確率が他の糖尿病治療薬と比べ問題になるほど飛び抜けて高いといったことは決してありません。

 今回の記事の一番の問題点は、薬のリスクの面しか伝えていないということです。どんな薬にも副作用はつきもので、医師であれば誰だってそのことは承知しています。その上で、治療効果を期待し、薬を処方するわけです。特に注意が必要な副作用であればともかく、頻度が少ない副作用を殊更強調し、安全に使用できている多くの患者さんを不安に怯えさせる必要があるのでしょうか。

 また、また副作用をあえて強調し過ぎることで、副作用を却って助長する可能性すらあります。ノセボ効果という言葉をご存知でしょうか?本来効果の無い薬(偽薬)が、プラスの効果が現れることをプラセボ効果といい、こちらは広く知られているかと思います。ノセボ効果とはその逆で、本来起き得ないマイナスの効果が生じてしまうことです。例えば、投与前に「吐き気の副作用がある」と説明して、偽薬を渡すと実際に吐き気が生じてしまう、ということがあるのです。

 ノセボ効果は安全に使用できている本当の薬でも生じ得るため、まだ起きていない副作用を強調することで、却って副作用を発生させる可能性があります。今回の記事は副作用を大きく喧伝しており、実際にノセボ効果を引き起こした例もあるかもしれません。

 記事の全てがよくない、というわけではありません。安易な処方や同じ処方を漫然と続けてしまう医師は確かにいます。その結果、どんどんと薬が増えていってしまう多剤併用(ポリファーマシー)は、医師の責任として改善すべき問題であると思います。今回の記事がこれだけ反響があるのも、医療者にとっては当たり前である副作用の問題が、患者さんにとってはほとんど知られていなかったことの現れだと思います。

<治療の中断>を減らした「オンライン診療」~会社やカフェからアクセスする患者たち
インタビュー「自宅や職場からの遠隔診察を可能に」第3回:新六本木クリニック・来田誠院長

第1回:<治療の中断>を減らした「オンライン診療」~会社やカフェからアクセスする患者たち
第2回:通院不要の「オンライン診療」~支払いはクレジット決済、薬は院外処方箋を自宅に配送
第3回:<治療の中断>を減らした「オンライン診療」~会社やカフェからアクセスする患者たち
 「5大疾病」のひとつとされ、もはや誰でもかかりうる病気となった精神疾患。その治療は長い期間にわたることが多いため、通院には負担がかかるのが常だった――。そんな精神科の診療をオンラインで行うことを可能にし、利便性を高めたのが新六本木クリニックだ。

精神保健福祉士。フリージャーナリスト。1977年…

里中高志

藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大…

堤寛

理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪…

三木貴弘