人間の心理に潜む「悪魔」を描いた『es(エス)』
『es(エス)』(監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル、2001年)は、スタンフォード大学で1971年に実際に行われた監禁実験をベースとしたドイツのサスペンス映画。公開当時、カルト的な人気を得て、ハリウッド版『エクスペリメント』が作られたほか、類似の設定の映画作品がいくつも追従したが、それでもなおオリジナルの評価は高い。
主人公タレクは、雑誌記者ながら仕事がなくタクシー運転手で喰いつないでいた。彼は新聞広告で疑似刑務所の被験者を募集しているのをみつけ、雑誌のスクープになると思って応募することにする。それは、20人の男性を「看守」と「囚人」に分けて、2週間生活するというものだった。
実際のスタンフォード大学での監禁実験は、危険な状態となったことから6日間で中止されている。その実験の発案者である心理学者フィリップ・ジルバルドーも、実験中は状況に流されて危険な精神状態であったことを認めている。
この映画では、最終的に死者2人と重傷3人を出すほどの極限状態に突入する。人間の心理にはそれほどの恐ろしい悪魔が潜んでいるということだろうか。また、科学者自身には自らの暴走を止めることが難しいことを思い知らされるである。
本物の死体解剖の様子が観られる『死体解剖医ヤーノシュ:エデンへの道』
『死体解剖医ヤーノシュ:エデンへの道』(監督:ロバート・エイドリアン・ペヨ、1995年)はドイツで製作された解剖ドキュメンタリー。本物の死体解剖の様子が観られる貴重な映像で、ハンガリーのブタペスト郊外で解剖医として働くケシェリュー・ヤーノシュの日常を淡々と描いている。
ヤーノシュは、妻と娘、家族を愛する父親だが、仕事のことについて多くを語ることはない。それでも遺体の処置の仕事に誇りを持っているという。解剖医だが解剖後にはエンバーミング(死体防腐処理)も行う。傷口を縫合して服を着せて、棺桶に入れるところも手伝っている。
登場するのは老人の遺体がほとんどで、ひたすら続く解剖映像を観ているとシュールな気持ちになってくる。そして何より印象に残るのが、ヤーノシュが「現在人の死因は病気ではなく孤独である」と語っているところ。人間は誰しもいつか死んでいく存在だからこそ、暖かい人間関係が必要であるということだろう。
ヤーノシュの日常映像として、魚をさばいたり、シャワーを浴びたり、可愛い娘の姿も登場する。そんな真摯な作りが、僕らが身体という物質的な存在に縛られていることを、いま一度思い起こさせてくれる。時間があるときに、ゆっくりと観て欲しい作品だ。