連載「死の真実が“生”を処方する」第29回

睡眠薬が犯罪に利用される〜インターネットでの“闇売買”の摘発を

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インターネットで不正取引や他人への譲渡

 睡眠薬は疾病の治療に用いるのが前提ですから、医師の処方箋がないと手に入れることはできません。しかし、近年ではインターネットで不正に取引されていたり、処方された薬を他人に譲渡していたり、一般の人が容易に手に入れられる状況にあります。

 これは睡眠薬だけに限ったことではありません。男性の方はご存じかと思いますが、勃起不全に用いられるED治療薬も、インターネットなどでよく売買されています。これらの薬は、使用方法を誤ると、副作用などで体が危険な状態に陥る可能性があるのです。

 ですから、医薬品は医師の指示のもとに使用されなければなりません。わが国では「麻薬及び向精神薬取締法」があり、睡眠薬を含む向精神薬については厳しい流通管理のもと、譲渡目的などでの所持が規制されています。

 しかし、不眠を訴えていくつもの医療機関を受診する多重受診や、不眠を装った受診、偽造処方箋による不正入手などによって、残念ながら睡眠薬が広く出回っているのが現状です。

大衆薬にもあなどれない睡眠作用

 薬局や薬店で入手が可能な大衆薬にも、睡眠作用を期待するものがあります。もちろん、医薬品に比べて作用が穏やかですので、前記のような強い副作用が出ることはあまりありません。

 しかし、風邪薬の中に眠気が発生する成分(第一世代の抗ヒスタミン薬など)が含まれていることがあるので、結果的に眠くなることはあるでしょう。

 また、薬に含まれている、チョウセンアサガオやナス科の植物の一部には、精神の変容をきたす成分が含まれています。大衆薬にはこれらの成分がごくわずかしか含有されてはいませんが、それでも一度に大量服用すると、思いがけない副作用が出現します。ですから、大衆薬でも多量に用いられれば、犯罪に関係する可能性はあるのです。

 睡眠薬の不適正使用による犯罪を減らす上で、インターネットなどによる闇売買を摘発することは重要です。しかし、このほかにも、個人的な譲渡が数え切れないほどあるはず。

 薬による犯罪を防止するために最も基本的なことですが、「病院や医院で処方された睡眠薬は、その患者さんのために処方されたもの。社会や個人の安全を守るためにも、絶対に他人に譲らない」と、国民に周知させる必要があります。


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一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)

滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。社会医学系指導医・専門医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999~2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。

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