シリーズ「最新の科学捜査で真犯人を追え!」第15回

太宰治の玉川上水心中事件を検証〜溺死か、殺害か、水死体からわかる死の状況とは

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太宰治の遺体が発見された1948(昭和23)年6月19日は38歳の誕生日だった

 数十年も前になるが、筆者は東京・三鷹市の玉川上水界隈を散策したことがある。作家・太宰治が情死した現場の形跡を確かめたいと思ったからだ。 

 当時の朝日新聞の報道によれば、1948(昭和23)年6月13日、太宰は美容師の愛人・山崎富栄と玉川上水に入水心中を計る。折からの強い雨が川面を打っていた。失踪6日後の19日午前6時50分頃、腰を赤い紐で結んだ二人の水死体は、新橋から下流に10mほど下った牟礼4丁目の明星学園高校付近で発見される。富栄の上にワイシャツの背中を見せた太宰が折り重なり、川底の棒杭に引っかかっていた。死亡推定月日は6月13日午前零時だった。

 日本浪曼派の評論家・山岸外史が書いた『人間太宰治』によると、富栄の顔は「激しく恐怖しているおそろしい相貌」だった。だが、検視によれば、太宰は穏やかな表情でほとんど水を飲んでおらず、入水前に絶命していたか仮死状態と推測されている。泥酔状態で水死の報道もある。遺体発見の日は、奇しくも太宰の38歳の誕生日。富栄は28歳の夭逝だった。

 この情死事件のように、水中から死体が上がった場合は、溺死なのか、殺されてから水中に投棄されたのか、溺死以外の原因で急死したのかを見極めなければならない。

 水死とは、水が肺へ侵入して肺に水が滞留し、気道が閉塞することによって起きる窒息死だ。酸素欠乏によって無意識の状態に陥ると、心停止に至る。酸素が一時的でも脳に供給されなければ、助かっても脳死や遷延性意識障害となるリスクが高まる。

 溺死なら、溺水肺と呼ばれる肺の膨張が起きるので、死体の胸を圧迫すれば、大量に吸引した水と肺内の粘液の混じり合った微細泡沫が鼻や口からから吹き出る。

 殺されて捨てられたなら、気管や肺の中から水が検出されないため、微細泡沫を吹き出さない。入水前に絶命か仮死状態だったとすれば、太宰は泡を吹かなかったはずだ。

 また、海や川や池で溺死したなら、肺の中に入ったプランクトンが臓器や血管に検出されることが多いため、溺死した場所や時間を推定できる。

 溺死でも殺害後の投棄でも、死体は一旦、水中に沈む。死後、時間が経過して体内に腐敗ガスが発生すると水面に浮上する。死体に数10kgもの重しを付けて投棄しても浮き上がることも少なくない。体内組織が水分を吸ってぶよぶよの状態になると、身体が膨れ上がって真っ白に見える。そのような状況の水死体は、とても正視できる状態ではない。

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