方向音痴な人とそうでない人の違いは?(shutterstock.com)
初めて訪れた場所の道がなかなか覚えられない、いわゆる「方向音痴」は、アルツハイマー病のごく初期の徴候である可能性があることが、米ワシントン大学(セントルイス)心理・脳科学准教授のDenise Head氏らの研究で示唆された(研究結果は『Journal of Alzheimer's Disease』2016年4月号に掲載)。
今回の研究は、アルツハイマー病の初期症状がある16人、一見正常だが脳脊髄液マーカーでアルツハイマー病の徴候が認められた13人、対照群として脳脊髄液マーカーで陰性であった健常者42人を被験者として行われた。
脳脊髄液マーカーとは、脳脊髄液(脳や脊髄の周囲を満たして循環する液体)の検査値のこと。脳骨髄液中の「アミロイドβ42」「タウタンパク質」「YKL-40」といったバイオマーカーの値がアルツハイマー病と関連することがわかっており、早い段階から発症リスクを予測できる有効な方法として注目を集めている。
研究ではバーチャル迷路を用いて、被験者に「あらかじめ設定されたルートを学習して辿る」「指定された目印への道を見つける」の2つの課題に挑戦してもらった。その結果、症状はないが脳脊髄液マーカーで陽性を示した群では、設定されたルートを辿る課題に関してはほとんど、または全く問題を認めなかったが、指定された目印への道を見つける課題については著しい困難を示していた。ただし、これらの被験者は、時間はかかったものの最終的には課題をクリアし、後に実施した試験では対照群に近い成績を示した。
指定された目印への道を見つけるためには、空間情報を認知して脳内マップ(認知地図:cognitive map)を作成しなくてはならない。今回の試験結果は、アルツハイマー病の症状は出ていないが徴候がある被験者で、こうした空間認知能力の低下がみられることを示すものである。
Head氏は、今回の試験は小規模なものであり、今後さらなる研究が必要だとしつつも、空間認知能力の評価はアルツハイマー病を発症前に検出するための新しい強力なツールになりうると考えている。
ただし、脳脊髄液マーカーはあくまでリスクを予測するものであり、陽性であっても必ずしもアルツハイマー病になるとは限らないし、脳内マップの作成が苦手、つまり極度の方向音痴であっても、アルツハイマー病を発症しない人も多いという。