連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」第11回

被災者や末期がん患者に「頑張って」は励みにならない? 声かけのポイントとは?

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「頑張って!」が逆効果になることも(shutterstock.com)

 時として「頑張って!」は、気楽な挨拶ではない場合がある。

 今回の熊本地震では、これまでに49人が亡くなり、今も行方不明者がいる。26日午前の時点で避難者は約48000人。もし彼らに「頑張って!」と声を掛けたら、どのような気持ちなるか? 

 その言葉が、文字通り励みになる人もいるだろうが、逆効果になってしまう人もいる。

 1995年に発生した阪神・淡路大震災で、家も家族も何もかもを失った人にとって一番つらい言葉は、ボランティアを含む周囲の人からかけられる「頑張って」だったという。精一杯、頑張りつくしている人が、これ以上どうやって頑張ればよいのか?

 同じことは、がんをはじめとする進行性疾患の末期患者にもいえる。医療従事者や周囲の人たちが掛ける「頑張って」の一言が、患者を傷つけることがある。

大切なのは「傾聴(active listening)」と「自己表現(assertion)」

 では、被害者や病者、社会的立場の弱い人に寄り添うには、どのようなコミュニケーションがいいのだろうか? その基本は「傾聴(active listening)」と「アサーション=自己表現(assertion)」だと私は思う。
 
 傾聴(active listening)は、耳を澄まし、まっすぐな心でじっくり話を聴くこと。相手の言葉だけでなく、その言葉が生まれた相手の心の内側の、真に言わんとすることを聴くことが大切だ。

 アサーション=自己表現は、相手のありのままを尊重し、その権利を侵害せずに、誠実、率直、対等な立場で自分の気持ちや意見をわかりやすく伝えること。相手を傷つけずに自分の気持ちや意見をうまく・正しく伝えることであり、コミュニケーションでもっとも難しいポイントだと思う。

 そのためには、自分の感情をうまくコントロールすることが求められる。実践的なアサーティブ・トレーニングが必要だ。その過程では、相手の気持ちを理解する=「共感(empathy)」とともに、相手と気持ちを共有する=「同情(sympathy)」が大切となる。

 「同情(sympathy)」は、ギリシャ語の語源通り「一緒に苦しむ」こと。つまり、相手の痛みは自分の痛みになる。「共感(empathy)」は、他人の痛みを肌で感じて共有するが、自分と相手との区別は保たれている。冷静に状況を分析し、アドバイスし、場合によっては援助する。

 心理用語では「empathy」は「感情移入」と訳されるが、私にはあまりピンとこない。やはり「感情の共感的理解」が最も適切な訳だろう。

堤寛(つつみ・ゆたか)

藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏、日本病理医フィルハーモニー(JPP)団長。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

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