耳鳴りのノイズは多種雑多(shutterstock.com)
春先は、天候が不安定であるため寒暖の差が大きく、気圧や日照時間が不規則となる。その結果、血管の収縮を調節するセロトニンが不足しやすく、片頭痛などが悪化しやすい。放置すれば、耳鳴りやめまいなどの症状が多くなる
耳鳴りは、音がないのに、何かが聞こえるように感じる状態で、耳鳴(じめい)とも呼ばれる。その聞こえ方も、「ジー、チー」というセミの声、「キーン、ボーン」という金属音、「ピー、ポー」という電子音、「ブーン」という重低音、「シャー」という空間音、「ゴォー」というジェット音、「ジャー」という水流音、「ブクブク」という痙攣音、「ザッザッ」という拍動音、「ピロピロピロ」という異次元音……。実に多種雑多なノイズのオンパレードだ。あなたも聞いたことがあるだろうか?
耳鳴りは、なぜ起きるのか? その説明の前に、まずは音の伝わり方を知っておこう。空気の振動である音は、外耳道→鼓膜→内耳の蝸牛(かぎゅう)に振動として伝わる。内耳の蝸牛は、振動のエネルギーを電気信号に変換する。電気信号に変換された音は、聴神経を経て、大脳皮質で不要な音はカットされ、優先度の高い必要な音だけが大脳皮質の聴覚中枢へ伝わり、音として認識される。
たとえば、こんな経験はないだろうか? 多くの人が集まるパーティー会場。目の前の人と交わす会話はよく聞こえるが、自分が関心のない人の会話はほとんど聞こえない。ところが、遠くで話している人の会話に自分の名前が出るや否や、耳はその人の会話をキャッチする。自分の名前が聞こえたとたんに、処理すべき情報の優先度が上がるため、大脳皮質は重要な音として認識する。これをカクテルパーティー効果という。
耳鳴りが苦痛になる仕組みとは?
1990年に発表された「Pawel J. Jastreboffの耳鳴りに関する神経生理学的モデル」は、耳鳴りが苦痛になる仕組みを次のように説明する――。
まず、大脳は、内耳や聴神経に発生した信号を大脳皮質に上げるべき情報とカットすべき情報に振り分ける。大脳皮質が耳鳴りを重大な音として認識すると、情緒中枢である大脳辺縁系に不快、苦痛、恐怖などの感情が起きるため、耳鳴りへの不快感が深まり、自律神経が乱れる。
つまり大脳は、内耳や聴神経に発生した異常ノイズを感じると、重大な病気への恐怖感に囚われるので、耳鳴りを重要な音と認識する。刺激を受けた大脳辺縁系に不快な感情が誘発されると、さらに耳鳴りとしての優先度が高まるため、耳鳴りを苦痛と感じる悪循環が生まれる。このような流れで耳鳴りに対する悪循環ができれば、耳鳴りは耐え難い不快なノイズとして意識に定着してしまう。
いいかえれば、大脳は必要な音や重要な音だけを自動的に取捨選択し、無害な音や重要でない音は聞こえていても意識まで達しないように働く。だが、耳鳴りで苦しんでいる人は、耳鳴りを危険な音や注意すべき音と敏感に感じている。耳鳴りを脳の異常や重大な病気の兆しではないかという恐怖感に囚われると、耳鳴りに対してより過敏になるため、大脳辺縁系が刺激され、不安、不快、恐怖、苛立ちなどの気分から逃れられなくなる。
このように、耳鳴りへの感受性が強まれば強まるほど耳鳴りの優先度が高まるため、大脳辺縁系の自律神経への刺激が強まる。その結果、自律神経のバランスが乱れ、耳鳴りへの不快感がますます深まる。
このように耳鳴りは、内耳や聴神経に発生した異常信号だ。