患者さんの体質に合わせて処方される漢方の〝婦人科三大処方〟
●漢方薬
更年期障害の治療には漢方薬もよく使われる。西洋薬が痛みや嘔気など個々の症状に直接作用するのに対して、東洋薬である漢方は、個々の不具合を解消するというよりも、体質改善を促し、自然治癒力を高めることによって穏やかに効いていく。他の薬剤との併用も可能で、長期にわたって服用できるため、最初に用いられやすい薬である。
漢方薬の処方に当たっては患者の体質を重視する。東洋医学では体質の違いを「証」と呼び、やせ細って抵抗力が弱い人を「虚証」、体格ががっしりして抵抗力のある人を「実証」という。虚証と実証の中間を「中間証」という。
また、「気血水」という概念を重視する。「気」とは目に見えない生命エネルギーであり、「血」とは血液である。「水」とは水分で、リンパ液、消化液、唾液など血液以外の体液を指す。東洋医学では、生体は「気血水」がバランスよく循環することによって健康を維持しており、「気血水」のどれか1つでも不足していたり、流れが悪かったりすると心身の不調が現われると考える。
例えば、「気」の流れが不足した状態が「気虚」で、「何となくだるい」「やる気がおこらない」などの症状が現われる。「気」の流れが滞った状態が「気滞」で、「イライラ」などの症状が現われ、「気」が落ち込んだ状態が「気鬱(きうつ)」である。「気」の流れが逆流した状態は「気逆」で、「のぼせ」「動悸」などが現われる。
また、「血」が不足した状態が「血虚」で、「立ちくらみ」「集中力の低下」などの症状が現われ、「血」の流れが悪くなり滞った状態が「瘀血(おけつ)」で、「月経不順」「肩こり」「便秘」などの症状が現われる。「水」が滞った状態は「水滞」で、「むくみ」などが現われる。
東洋医学では、「虚証」か「実証」か、「気血水」のうちどれが欠けているのか、患者の体質や症状に応じて生薬を使い分けるのである。
ちなみに、更年期障害の治療に頻繁に使われる漢方薬で、“婦人科三大処方”といわれるのは、加味逍遥散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当期芍薬散(とうきしゃくやくさん)である。「虚証」で「気虚」が認められ、様々な精神症状を訴える人には“気剤”と呼ばれる加味逍遥散がよく用いられる。「実証」で「瘀血」が認められる場合には桂枝茯苓丸が用いられ、「中間証」で「水滞」が認められ、「血虚」の症状がある場合には当期芍薬散が用いられることが多い。
このように漢方薬による治療は、西洋薬のような“病名投与”ではなく、患者の体質に合わせた“随証投与”であるため、同じ症状でも、患者の体質が異なれば、まったく違う漢方薬が処方されることもある。更年期障害の症状は十人十色であり、個々の体質を検討し、その人にぴったり合った漢方薬を見つけることは診療の妙味でもある。
漢方薬は慣れるまで「まずい」「飲みづらい」との声もいただくが、副作用をさほど気にする必要もなく、最初に入りやすい薬である。HRTに抵抗がある人も、一度試してみるといいだろう。